JR東海の葛西会長、景気後退でもリニア計画続行に意欲

新幹線売り込みに強い意欲(JR東海・葛西敬之会長)〔AFPBB News〕

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 JR東とJR東海の2社も海外鉄道事業の専門部署を設置。中でも、JR東海の葛西敬之会長は、最新型であるN700系車両の輸出に並々ならぬ意欲を見せている。

 同社は米国での受注のために新たに編成数を8両に短縮した国際仕様「N700-I」(Iはインターナショナルの略)を開発。会長自ら現地に乗り込んで「JR東海の新幹線が世界一」と売り込んだ。全米11路線のうち、3路線程度をターゲットに車両から運行システムまでの一体的な新幹線システムを輸出したい考えだ。

 また、政府内では、7月24日付の国交省人事で鉄道局長に本田勝氏(1976年旧運輸省入省)が就任した。本田氏は将来の次官候補の一人と目される人物。省内でもとりわけ「豪腕タイプ」として知られ、先の通常国会にタクシー供給過剰解消のための特別措置法案を提出する際には、「担当局長として100人以上の関係者を1人で根回しして歩いた」(同省関係者)との武勇伝も。

 鉄道業界関係者は「スタンドプレーに走りがちの葛西氏に、ネゴシエーターの本田氏が加わったことで、陣容は強力になってきた」と話している。

意外と人気だった麻生首相

 では、日本勢に足りないものは何か? ――「それは『顔』だよ」とある政府関係者は言う。役者が揃い始めたように見える新幹線売り込みチームだが、ライバル国は既に先を行っている。

 ブラジルの入札には日本以外にフランスと韓国が関心を示しているが、「フランスは年内にもサルコジ大統領が再度ブラジル入りする方向で調整していると聞いている。韓国にはルラ大統領が赴いて、李明博大統領と会談するもよう」(政府関係筋)で、トップセールスが活発化。このままでは日本は出遅れてしまうとの懸念が生じている。

民主党、地滑り的圧勝で政権交代へ

ブラジルでは人気者です〔AFPBB News

 実はこの分野では麻生太郎首相は意外と評判が良い日本の「顔」だった。麻生氏は外相時代に日本―ブラジル国会議員連盟(日伯議連)会長に就任、ブラジルでは日本の政治家の中でもとりわけ親しまれている人物。能天気で明るい性格もプラスに働き、ブラジルへのセールスにはうってつけだった。

 ところが、間もなく発足する民主党政権では、誰がこの分野を先導するのか具体的な政治家の顔すら見えてこない。鉄道を熟知する民主党議員もいないわけではないが、「この場合は副大臣や政務官クラスではダメ。とにかく大物でないと相手国へのインパクトもない」(同)。

 また、国交省が今回、霞が関の火薬庫となっている特殊事情もマイナス。「ダム中止」や「高速道路無料化」のような民主党が表看板にしたい最重要課題が目白押しで、それ以外の懸案事項が棚上げされてしまう可能性がある。本来セールスの旗振り役となるはずの国交大臣も、果たしてどこまで担えるのか。雲行きが怪しい。

 ある政府関係者は「米国やブラジルなど有望市場が複数国に拡大していることを考えると、今後は少なくともプロジェクト全体を推進する超党派議連が必要となるだろう」と指摘する。

 1990年代には、中国に新幹線を売り込もうと政官民の日中鉄道友好推進協議会が設けられた。いまのところ、米国やブラジルに向けて同様の枠組みを発足させる動きはない。

 葛西氏のような個性派が切り込み隊長として暴れ回りつつ、大物国会議員が日本の顔となりオールジャパンの枠組みを率いる――。果たして民主党がそうした大きな仕掛けをつくれるか。「したたかな新幹線外交」を期待したい。