リーマン・ショックで日本経済は輸出製造業を中心に大打撃を受けたが、国内産業で地味ながら堅調を維持したのが農畜産業である(口蹄疫問題は予断を許さないが)。そこでは依然として、農協が強力な組織を持つ保守勢力として存在する。
その一方で、「食のブランド志向」を強める新しいタイプの消費者が増加し、その結果「農業ビジネスマン」とも言うべき人々が台頭してきた。彼らは農畜産業を取り巻く金融も新しい時代に導いている。
富士山の麓、作物のネット販売から洒落たフランス料理店に
農畜産業にとって、最大の追い風が「食の安全」ブームである。
中国製餃子問題などで、輸入食品に対する見方が厳しくなった。それに加えて中高年や子育て世代の健康食品志向が、「多少値段は高くても、安心して食べられる食材を購入する」消費者を生み出している。ファストフードの価格はどんどん低下しているが、こだわり層向け食材は高止まり傾向にあり、デフレに強い側面も見せている。
こうした消費者は国内にとどまらない。青森の高級リンゴが中国向けに高く輸出されるなど、バブル経済を背景に「ブランド志向」を強める中国の消費者が食品分野にも参戦してきている。
一方、生産者サイドでも消費者感覚を持つ若手の生産者が農業に入り、小規模ながら成果を上げつつある。
富士山の麓、静岡県富士宮市における事例を紹介したい。東京のある有名レストランのシェフがより良い食材を追い求め、同市の山中で農業を始めた。そこで採れた作物のインターネット販売で地歩を固めた後、農地の横にお洒落なフランス料理店を開いて人気を博している。
メニューには自家製だけでなく、近所の農畜産業者が育て上げた食材をふんだんに使う。近郊ばかりか東京からも多くの客が訪れている。オーナーはこうしたビジネス展開をあくまでも農業の延長と捉えているようだ。