米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題をめぐり、鳩山由紀夫前内閣で代替地として話題に上ったサイパン島とテニアン島。一部では地元が基地受け入れに積極的だと伝えられたが、陥っている経済的苦境について多くの日本人が知らない。前首相が散々に引っ掻き回した基地問題は、菅直人内閣でも大きな政治問題となるはずであり、今回は現地の実態を考えてみたい。

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菅新政権でも普天間が大きな政治問題に〔AFPBB News

 サイパン島やテニアン島は米国そのものではなく、米自治領北マリアナ諸島連邦に属する。

 サイパンには目ぼしい産業がない。日本から近くて海が素晴らしく綺麗であるほかには、大したウリがない。そこで邦人観光客を頼りにホテルや土産物店が島の生計を立ててきた。バブル期には日本資本によるホテル建設が相次ぎ、道路も次々に整備されて鼻息も相当荒かった。

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 ところが、日本の景気が低迷してデフレ化が進むと渡航者のほとんどがツアー客となり、「単価」は著しく低下した。採算が厳しくなった日本航空はサイパン便の運営をコストの安い子会社のJALウェイズに移したが、それでも支えきれず成田からの直行便路線を廃止した。今では米系の航空会社による路線が残るだけだ。

サイパン島とテニアン島

 日本航空はサイパンにホテルとショッピングセンターを持っていたが、ホテルは売却され、ショッピングセンターは廃墟と化した。日系航空会社の成田直行便廃止により日本からはツアー客さえ大して期待できなくなり、サイパンのホテルは稼働率アップのために台湾、韓国、ロシアそして中国からの客を狙い始めた。

 中国からの観光客は昔の日本の「農協ツアー」さながらであり、インスタント食品を持ち込む者も多く、地元では「カネを落とさない相手」として不評である。それでもホテルの稼働率維持には欠かせない。辛うじて極東ロシアの資源ビジネスが生んだ金持ち連中がかつての日本人客の代わりになるのだが、その数は少ない。日本発のデフレがサイパンの観光産業を直撃したのだ。