「お客さんから面と向かって『まゆつばでしょう』と言われたこともあります。私たちの製品の機能を信じてもらうのに本当に苦労しました」

 苦笑まじりにこう話すのは、静岡県浜松市の化学ベンチャー企業、イノベーティブ・デザイン&テクノロジー(以下、ID&T)の田中博社長だ。

工場は「スケール」で困っている

イノベーティブ・デザイン&テクノロジー(株)
〒434-0045
静岡県浜松市北区新都田1丁目3-3-1

 田中社長はもともと化学メーカーで電気分解の研究をしていた。物質に電流を与えると、内部で電気分解が起こり、物質の性質が変わる。中学校で水の電気分解の実験を行った人は多いだろう。アルカリイオン水は、水を電気分解した電解水の一種である。

 田中社長は、電気分解技術を利用して今までにない商品を作ろうと考え、2005年にID&Tを設立。お酒を電気分解して、味をまろやかにしたり酸化を防いだりする装置、また、殺菌水や洗浄水を生成する業務用の電解水生成装置などを開発した。

 電気分解でお酒の味がまろやかになるというのはにわかには信じられない話だが、田中社長によれば科学的な根拠がある。つまり、電気分解によって水の水素結合を瞬間的に切ると、水分子がアルコール分子を取り囲むような状態になる。すると、アルコール分子が直接舌に触れなくなるので、結果的に何年も熟成させたのと同じようなまろやかな味になるのだという。

 米国のナパバレー(カリフォルニアワインの本拠地)で、ワイン作りの専門家たちに電解ワインを試飲してもらったところ、「確かに味が違う」「本当にまろやかになっている」という評価を得た。

 さて、現在、最も力を入れて販売しているのが、「エレクトロライフ」という装置だ。工場などに置かれているクーリングタワー(冷却棟)のスケール除去装置である。

 いきなり「スケール」と言っても、分からない人が多いと思う。まず、クーリングタワーとは、工場で使った機械オイルなどを冷却する装置だ。水を循環させる細い管を備え、その管にオイルを接触させ、オイルを冷却する。

 オイルから熱を奪った水は高温になり、蒸発していく。すると、水の中からカルシウムやマグネシウムといったミネラル成分が析出し、管の中にどんどん溜まっていく。この凝固したミネラルの塊が「スケール」である。

田中博社長と「エレクトロライフ」

 スケールが溜まると冷却効果が低下する。また管の中の水を循環させるために、より大量の電力が必要となってしまう。だからクーリングタワーの性能を保つために、管の中のスケールを定期的に除去しなければならない。

 田中社長が知り合いの化学メーカーの社長と話をしていた時に、「スケールで困っている工場が多い」と聞いたことが開発のきっかけとなった。

 エレクトロライフは、循環水に最大12アンペアという強力な電流を与えることで、電気分解する。水に電気分解が起きると分子の構造が変わる。分子と分子の間が広がり、その間に他の物質の分子が入り込みやすくなる。つまり、溶けやすくなるのだ。この電解水がスケールを溶かしていくという仕組みである。