ニューヨークにはクリエイティブビジネスが数多く存在する。
米国勢調査によると、ニューヨークには映画制作、建築、出版関連の企業がそれぞれおよそ1000社に上る。ファッションを含むデザイン会社は2000社をはるかに超え、美術館など文化施設も充実しており、アーティストやライターが多数居住している。クリエイティブビジネスがこれほど集中する都市は、米国ではニューヨーク以外に見当たらない。
ニューヨークでは「ウォール街」が金融界を象徴するように、「マディソン・アベニュー」は広告関連ビジネスを指す。この地域に、広告関連会社が数多く集まっているためだ。ファッションウイークや大規模なアートフェアであるアーモリーショーなど、ニューヨークではクリエイティブ分野をリードする主要イベントが開催される。
なぜ特定のビジネスが1つの場所に集中するのか。この「クラスター」が発生する理由を説明するのが、「集積の経済」という考え方である。
企業がお互いに近接する場所に存在すれば、コミュニケーションや移動コストが低減する。同時に、密接な情報交換の機会が得られる。そこから経済的メリットを享受できるというのが、集積の経済だ。それが提示する論理は、容易に理解できよう。しかし、その説得力は必ずしも十分ではなく、疑問視されることがあるのも事実だ。
なるほど同業者や関連するビジネスが近くにいれば、便利なのは間違いない。しかし、電話や電子メールでもコミュニケーションはできるはず。実際に会う、対面の情報交換は理想的とはいえ、ニューヨークの高いコストを正当化できるほどの効果があるのだろうか。
唯一の信頼できる情報源、それは知人友人
ニューヨークのクリエイティブビジネスを構成する大多数は、小規模の企業か自営業のフリーランサーである。彼らはプロジェクトに応じてニーズに合った人材を探し出し、互いに雇用し合う。
つまりプロジェクトごとに、デザイナー、パフォーマー、撮影クルーなど適切なメンバーを選び、一時的なチームを組成する。プロジェクト終了と同時にチームは解散し、メンバーはそれぞれまた別のプロジェクトに参加する。クリエイティブビジネスは本来的にアドホックな共同作業であり、参加者間の関係性を絶えず再構築していく「ネットワーク経済」と言える。
ニューヨークに拠点を置き、公共政策を専門とするシンクタンク、センター・フォー・アン・アーバン・フューチャーは、ニューヨークにおけるクリエイティブビジネスの実態をまとめた数少ないリポート「Creative New York」を発表している。
このリポートには、次のような興味深い指摘がある。スタッフ、パートナー、クライアントという重要な情報に関して、クリエイティブビジネスに属する企業や個人は、知人友人や同業者などとのインフォーマルなネットワークに徹底的に依存しているというのだ。
例えば、ある特殊なデザイナーが必要になった場合、そういったデザイナーを教えてほしいと知人友人や同業者に聞くのである。業界団体や一般広告、ウェブに当たることはまずない。信頼できる情報は、とにかく知人友人経由で入手するのだ。