だから皮肉なことに、日本国債を売り叩いて儲けようとする海外ファンドの支店の前ではなく、それを守ろうと戦っている財務省の前でデモが起きたりしています。育てるというよりは、親に反抗している子供のようです。そうした最近の流れもあって、今回の総選挙では、ほとんどの党が、もっと手取りを増やします、税金を下げます、お金を配ります、という政策を前面に出していました。国家観や外交政策、この国のかたちを巡っての議論はほとんど聞こえてきませんでした。こうした現状を見ると、衆愚政治の様相を呈していると感じざるを得ません。

 ただ、そんな中でも総選挙で唯一「消費減税反対」を掲げたチームみらいが議席を伸ばしたことには、微かな希望を感じています。

なぜ高市政権に過度な期待はできないのか

 では、こうした状況で高市政権に何が期待できるのか。結論から言うと、私は「誰がやっても、そう大きくは変わらない」と考えています。だからこそ、先ほど述べたように、対外関係を安定させるためにも、政権が安定していること自体に価値があるのです。

 政治の力で、少子高齢化や地方の衰退といった日本の構造的な問題を解決し、再び世界に冠たる経済大国へと立て直すことができるか。残念ながら、それは極めて難しいと言わざるを得ません。

 なぜなら、今の政治は「三すくみ」の状態にあるからです。

1. 国民のニーズ:大衆は減税や給付金といった「バラマキ」を求める。

2. 市場からの圧力:しかし、過度な財政出動は、長期金利の上昇や円安を招き、市場からの攻撃を受けるリスクがある。(※高市首相が「“責任ある”積極財政」という言葉を使うのもそのためです。)

3. 増え続けるコスト:一方で、防衛費の増額、インフラの老朽化対策、社会保障費など、必要不可欠な支出は増え続けている。

 国民、市場、そして国家の必須経費。この三すくみの中で、政治家が取れる選択肢は非常に限られており、誰がトップに立っても大胆な改革は難しいのです。比喩的に言うならば、ハンドル操作を少しでも誤ると崖から転落しかねない曲がりくねった道を、うまく運転するのが総理大臣・内閣の今の役割で、車自体の性能をどう上げるかとか、道をどう整備するか、などまで手が回らないのが現状です。

 より正確には、運転免許は持っていますが、自動車メーカーや土木建設会社ではないので、車の整備や道の整備はできないわけです。しかも、本当に大事なのは、中長期的にドライバーや工事事業者などの人材を育てたり、そもそも車を走らせる場所がここで良いのか(別の場所に全てを整備しなおして、そこで車を走らせよう)という根本を考えたりすることであるわけですが、とてもとても、そこまでは手が回りません。

 もちろん、今の高市政権が本気であることは間違いありません。むしろ、こんなにも本気なのか、という姿勢に、全く皮肉とかではなく、心から感動しているくらいです。私の出身元の経産省が特に頑張っている印象ですが、経産省の事務次官経験者の飯田祐二氏が官邸で政務秘書官となり、経産省のH7年組のエースであり、私もかつて仕事を引き継いだことのある大変優秀な香山弘文氏が事務秘書官となり、安倍政権で政権の屋台骨を支えていた今井尚哉氏が参与として目を光らせ、同じく安倍総理秘書官として活躍した佐伯氏(私の1期下)が50歳という若さであるにもかかわらず、事務次官級とされる内閣広報官に抜擢されています。大阪万博を経産省側から取り仕切った茂木正氏は、木原稔官房長官の首席秘書官です。

 世界の中で国力的に(特に経済的に)沈没するかどうかという瀬戸際にあって、曲がりくねった道を安全に運転するだけでなく、何とか車の性能を上げて道路を整備し、場合によっては、人材を育てたり運転する場所を大きく変えたりしよう、というところまでやろうと、涙ぐましい努力をしているわけです。

 実際、夏に向けて策定中の「日本成長戦略」では17の成長分野を掲げています。17というのは、戦略分野として多すぎるのではないかという批判も多々ありますが、先述のような「必死」な状況からは、もう、全部やる、というしかありません。あまり注目されていませんが、この17分野以外に、横割りの8分野(人材育成、金融)なども出されており、ほかにも外交安保から地域未来戦略まで、様々なことに取り組むとしています。

 ただ、これまでの経験上、こうした官主導の産業政策が大きな成功を収めるのは容易ではありません。経産省をはじめとする政府の本気度には脱帽ですが、しかし、これまでの官僚や政治家たちも、インフラ輸出だ、クールジャパンだ、サプライサイド改革だ、需要創出だと、バブル崩壊後の30年以上にわたって、あの手この手で日本を成長させようと必死に色々なことに取り組んできました。

 実際、高市政権の取組みについて、「分野が多すぎる」「逆に日本の強みである自動車やロボットなどが明確に分野としては入っておらず対象が狭すぎる」「テーマを掲げただけでゴールへの道筋が見えない」「そもそも官主導ではうまくいかない」といった様々な批判がぶつけられています。しかし、そんな批判で萎えることなく、繰り返しになりますが、運転免許しか持っていないにもかかわらず、車も道も整備して、人も育てて運転場所も変えるくらいの勢いで臨むのだと意気軒高です。