正直、今の日本で政治にできる役割は、日本が大きく後退するのを食い止め、社会をうまく運営していくことくらいです。ソニーだホンダだと家電や自動車メーカーが世界を席巻した日本の戦後の高度成長も、「日本に抜かれて終わる」と思われていた90年代にむしろいわゆるGAFAM(グーグル、アップル等)が急伸して世界を席巻したアメリカも、詳述はしませんが実は最近の中国も(いわゆるBATやEVメーカーたちも)、ベースになっているのは民の勢いや開発力です。そこに上手に政府のインセンティブや競争政策が乗っかって行っているわけで、そこは、運転技術しかない政治や行政に、車や道路や人を作る力はありません。

 気合や努力は多としますが、政治の力だけで日本社会や経済を劇的に回復させることを期待するのは、少し酷な話なのだと思います。上記の三すくみの中での運転がせいぜいで、日本の本質的な成長のために高市政権が出来ることにも限界があると言わざるをえません。

日本の未来を拓く鍵―サステナブルな社会の作り方

 では、民衆も政治も行政も、それぞれに限界を抱える中で、日本の社会や経済が回復していくための鍵はどこにあるのでしょうか。先述のとおりですが、主役は民でしかありえません。特に私は、短期的な視点と中長期的な視点で考えるべきだと思っています。

 短期的に期待したいのは、事業家や起業家層です。かつて経済学者のケインズが、古い地主層や権利ばかりを主張する労働者層ではなく、知恵と勇気で新しいビジネスを生み出す新興の事業家たちに期待したように(政治的には、労働党や保守党ではなく自由党を応援したように)、今の日本でも、彼らの力が希望の光となります。世界からみるとちょっと勢いにかけるきらいはありますが、日本でも若手を中心に、リスクをとって起業しようとか、世界に冠たる事業を作ろうという息吹が出て来ています。上記の例えでいえば、総理や内閣が「運転」しやすいように、民主導で、新たな車や道を整備しよう、という動きです。

 さらに中長期的目線でみれば、メガネメーカーJINS創業者の田中仁さんが私財を投じて前橋の人づくりや街づくりに取り組んだり、ジャパネットたかたの髙田社長が長崎に民間資金でスタジアムを建設したり、グロービス創業者の堀さんが水戸で人材育成や街づくりをしたりと、公共事業に頼らずに、ビジネスの力を中心に地域を活性化させる動きまで生まれています。

 中長期的に最も重要なのは、一人ひとりと、その集まりである地域を作り直していくことです。上記の例えでいえば、運転したり車を作ったり道を整備する人を育てたり、また、走る場所を大きく変えたりする動きです。民として、政治に「パンとサーカス」を求めるのではなく、自らの意志で未来を切り拓く「始動者」を、この国に数多く育てていく必要があります。

 今の日本は、幕末の黒船来航(アメリカ人のペリーに圧倒され)や先の大戦での敗北(アメリカ人のマッカーサーに圧倒され)に続く「第三の敗戦」の状況にあると私は考えています。トランプ大統領やイーロン・マスク氏などに全くかなわず、GAFAMや、最近では中国の巨大企業に太刀打ちできない現状は、まさに敗戦と言っていいでしょう。

 しかし、忘れてはならない事実は、幕末維新や戦後復興の時代、我々の先人たちは、圧倒的敗北感に打ちのめされることなく、日本は見事に立ち直ってむしろ世界をリードしていったという事実です。その原動力となったのは、志を持った一人ひとりの存在と、彼らを育んだ強固な地域社会でした。

 残念ながら、現代の日本において、そうしたリーダー(始動者)層や地域が弱体化していることは否めません。しかし、日本の再生の道は、そこからしか始まらないのです。そんなこともあり、私自身は、政治に進むのではなく、起業をして、リーダー育成や地域の活性に取り組んでいます。

 私が主宰する青山社中では、さらにこれから、坂本龍馬の「海援隊」にちなんで、日本の改革を援助する「改援隊」という社会運動を始めようとしています。政治や行政に頼るだけでなく、私たち民間の力で、サステナブルな社会(パブリック)を自分たちの手で作り上げていく。つまり、人材や地域をサステナブルに時代を超えて強くすることで、日本という社会を強靭にしていきたいと考えています。

 リーダーシップ論には、「テクニカル・アプローチ」と「アダプティブ・アプローチ」という考え方があります。病気の患者に対し、薬を処方するのがテクニカル・アプローチ。一方で、生活習慣を改善し、筋肉をつけるなど、体質そのものを変えていくのがアダプティブ・アプローチです。

 今の政治で行われている減税や制度改革は、対症療法的なテクニカル・アプローチに過ぎません。難路にあって、何とか事故らないように運転する、ということでしかないわけです。選挙や政治というお祭りについ目が行き、そこでは、国民はつい「おねだり」をしてしまうわけですが、日本という国を本当に立て直すためには、私たち一人ひとりの意識を変え、社会の体質そのものを変えていくという、時間のかかるアダプティブ・アプローチこそが必要不可欠です。

 今回の選挙をきっかけに、そんな日本の未来について、皆さんと一緒に考えていければと思います。