「null²」は70年万博「太陽の塔」へのアンサー
「null²」は、1970年万博における岡本太郎の「太陽の塔」に対応するものとして構想された。「太郎が縄文なら、こちらは弥生でいこうと考えた」と落合氏。70年万博のテーマ「人類の進歩と調和」に否定的だった岡本に対し「人類は進歩しないけれど、文明は勝手に進歩する」と応じる。テーマソングはAIが歌う「さよならホモサピエンス」だ。
「null²(ヌルヌル)」は、プログラミングにおける「null(何もない)」と仏教思想の「空(くう)」を掛け合わせた意味を持つ。「ヌルヌル」という表現は万葉集にも現れるという(写真:宮沢洋)
コンクリートで固められた「太陽の塔」に対し、鏡のように辺りを映す膜に覆われた「null²」は、万博会期中も改変が繰り返された「ソフトウェア的な建物(落合氏)」だ。膜素材やLEDから独自に開発し、5年以上の月日をかけて完成した。「建築、内装、ロボティクス、コンピューターなど、多様なチームがまとまって1つのパビリオンをつくりあげた点が特徴的なプロジェクトだった」と落合氏は振り返る。
「万博のパビリオンは会期が終わったらなくなってしまうもの。どうすればストーリーとして人の心に刻まれるか、記憶に残り、語り継がれるものになるかが重要だ」と落合氏。万博最終日、「null²」の周囲は大勢の人で埋め尽くされ、「さよならコール」が起きたという。
来年、「null²」は横浜で開催される2027年国際園芸博覧会に再び現れる予定だ。「形はまったく違うけれど、どう見てもnull²、というものになると思います。ぜひ遊びに来てください」(落合氏)
最多の推薦委員が推した「大屋根リング」
一般投票では次点の「大屋根リング」は、「この建築がすごいベスト10」選定時には最多の推薦を集めており、「推薦委員会ベスト1」を授与された。
「大阪・関西万博」会場デザインプロデューサーを務めた藤本壮介氏は、Xで7.2万人、Instagramで35.5万人のフォロワーを持つ(2026年2月時点)。みんなの建築大賞に関しても、落合氏と同様、積極的に発信していた。授与式にはリモート出席し「落合さんは一緒に万博を盛り上げた仲間。大賞受賞は非常に嬉しい」と祝意を述べた。
授与式にて、画面越しの藤本壮介氏を囲む「大屋根リング」設計チーム(写真:宮沢洋)
開幕前は批判も受けた「大屋根リング」だが、完成した建築を体験した人々からは、感動の声が上がっていた。みんなの建築大賞アカウントの投票用ポスト(X)には100件を超えるリプライが付き、その多くが自ら写真を付けてコメントしている。これは、ほかの候補作にはあまり見られない現象だった。推薦委員長の五十嵐氏は授与式で「久しぶりに建築の力を感じさせてくれ、勇気づけられるプロジェクトだった」と述べた。
藤本氏自身も「現場でリアルな建築を体感することの価値を再認識した」と語る。「リング上では遠くの人の姿も見え、みんなが同じ屋根の上で、同じ1つの空を見ていることが実感できた。人の力が、建築の本当の力を引き出してくれた」
推薦委員会ベスト1の「大屋根リング」(写真:菅原由依子)
大屋根リングは「世界の多様な文化が集まり、ともに未来をつくる」という希望の表現だったという。藤本氏は受賞挨拶を次のように締め括った。
「皮肉なことに万博閉幕後、世界の分断はより厳しくなっている。それでもしっかり声を挙げ、人類は多様でありながら1つになれる、というメッセージを発信できたことに、大きな価値があったと思う」