「必要」を可視化する仕組み
──ただ、「必要」を推し量る仕組みを分野ごとに構築していくとなると、非常に大がかりで、現実的ではないようにも感じられます。
中村:おっしゃる通りです。介護保険のように、外部から「この人にはこの程度の必要がある」と判断する仕組みを、あらゆる分野で個別に整備していくのは、現実的にはかなり難しい。だから私は、「推察する仕組み」よりも、「必要を表明できる回路」をつくることが重要だと考えています。
本書で提案したのが、人々が「これは問題だ」「これは社会にとって必要だ」と感じていることに投票できる仕組みです。たとえば、一人ひとりが100ポイントの投票権を持ち、それを自分の関心に応じて配分する。地球環境に50ポイント、ジェンダー問題に30ポイント、格差是正に20ポイントといった具合です。
この投票ポイントが集まれば、どの問題にどれだけ大きな「必要」が存在しているのかが可視化されます。次に、その投票結果に応じて、課題に取り組む団体に必要ポイントを付与する。さらに、その団体が、問題解決に貢献した企業や組織にポイントを配分していく。
たとえば、障害者支援団体が必要ポイントを得た場合、障害者雇用に積極的な企業や、生活支援を行っている企業にポイントを付与することが考えられます。企業にとっては、ポイントを得ることが社会的責任を果たしている証明になる。今後、CSRが法的に義務づけられるようになれば、その達成度を測る指標としても活用できる可能性があります。
──さまざまな「必要」に向き合ううえで、私たち一人ひとりが意識すべきことは何でしょうか。
中村:まず大切なのは、自分自身の「必要」が何なのかを丁寧に考えることだと思います。たとえば、激務で、家族との時間や健康を犠牲にしている人がいます。本人は高い給料や仕事のやりがいを求めて、その働き方が「必要」だと思っているかもしれません。

けれども、よく考えてみると、その人が本当に求めているのは努力が正当に評価され、納得感を持って社会で活躍できることなのではないでしょうか。それを見失い、いつの間にか出世競争そのものが目的になってしまっている人は少なくないと思います。
もう一つ重要なのは、他人の「必要」に目を向けることです。「必要」はお金の支払い意思として表れないため、どうしても埋もれてしまう。中には、「必要」を抱えながらも、それを表明できずに沈黙している人もいるでしょう。
「世の中はこういうものだから」と割り切って、その声に耳をふさぐ生き方もあります。しかし、少しだけ前向きな姿勢に切り替えてみてほしい。世の中には、まだ満たされていない「必要」があふれています。それを一つずつ改善していけば、社会は少しずつ良い方向に向かっていくはずです。
前向きになることで、自分の身近なところにある「必要」にも気づけるようになる。そこから社会を変えていくことは、決して不可能ではないと私は考えています。
中村 隆之(なかむら・たかゆき)
青山学院大学経済学部教授
1973年、神奈川県生まれ。京都大学経済学部卒業。同大学大学院博士後期課程修了。博士(経済学)。専攻は経済学史。著書に『はじめての経済思想史』(講談社現代新書)、『ハロッドの思想と動態経済学』(日本評論社)、論文に「ケインジアンと自由主義市場者1980-1989」(根井雅弘編著『ノーベル経済学賞』講談社選書メチエ)がある。
関 瑶子(せき・ようこ)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修士課程修了。素材メーカーの研究開発部門・営業企画部門、市場調査会社、外資系コンサルティング会社を経て独立。YouTubeチャンネル「著者が語る」の運営に参画中。