外資による投資も必要だが…
国際収支ベースで日本の不動産買収をみていくと、現在検討している規制強化の影響はどう出るでしょう?
日本から海外への不動産投資残高(2025年)は26.7兆円*3で、このうち直接投資額が15.5兆円、不動産ファンド等を通じた投資額が11.2兆円です。海外資産を日本はこれだけもっているということです。
逆に日本への海外勢による投資額は、JLL(米国ジョーンズラングラサール)の商業用不動産投資のデータ*4から推計すると、2016~25年の10年間の合計はおおむね11兆円程度(商業用不動産投資)と見られます。
①日本が海外にもつ資産と、②外資がもつ日本の資産を比べ、「日本が外資からの不動産投資を禁止すれば日本は海外にもつ何倍もの不動産を接収されて大損するからダメだ」という人がいますが、対外投資や対日投資をひとくくりにして単純化していうのは難しいです。不動産には商業用不動産のほか、重要国土、離島、農地、水源林等もあり、評価が難しかったり、統計上カウントされていない地目も残っていたりするからです。
もう一つ。経済安全保障の観点から「世界が認める民主主義国家群」と「それ以外の国家群」に分けて考えると、①日本が海外にもつ資産の大部分(9割以上)が前者の「世界が認める民主主義国家群」にある一方、②外資がもつ日本の資産の相当数(約半数?*5)は「それ以外の国家群」です。安全保障上、これら2つの国家群を同列には置くことは適当でないので注意が必要です。
*3 https://www.smtri.jp/report_column/report/2025_11_19_6779.html
*4 日本への不動産投資が初の3兆円超 1~6月、東京が都市別で世界首位(日本経済新聞2025.9.10)
*5 https://www.cao.go.jp/tochi-chosa/doc/kohyor6.pdf
重要国土(2024年度取得分)をもつ外国人・外国系法人のうち、47.5%(筆個)が中国。
築地大橋と高層マンション群(写真:Nobuyuki_Yoshikawa/イメージマート )
今後もし、日本が今までのような売買完全フリーをやめて、ガチガチの規制をはじめたら、外資は逃げて、②が激減していくことは明らかです。無差別な規制をしてしまうと、大切な国土を買収されずに済むかもしれませんが、トータルとして見るとこれでは日本経済はへたってしまいます。
外資土地規制に世界標準はないのですが、「東京都心を中心としたグローバル経済の稼ぎ頭」と「重要国土」の切り分け方、「その他のグリーンゾーンやグレーゾーン」の扱い方に焦点を当てた対応が将来的に必要になってくると思います。
単純に事が運ばないことだけは確かです。
【平野秀樹】国土資源総研所長
九州大学農学部卒業後、農水省入省。環境省環境影響評価課長、農水省中部森林管理局長を歴任。東京財団上席研究員、大阪大学医学部講師、青森大学薬学部教授、姫路大学農畜産研究所長も務めた。博士(農学)。2024年瑞宝中綬章受賞。「聞き書き甲子園(高校生による民俗伝承)」「森林セラピー®」の創設にかかわる。現在、兵庫ムクナ豆生産組合理事長、森林セラピーソサエティ副理事長を兼務。
著書:『サイレント国土買収』(角川新書)、『日本はすでに侵略されている』(新潮新書)、『日本、買います』(新潮社)、『森の巨人たち・巨木百選』(講談社)、『森林理想郷を求めて』(中公新書)
共著:『宮本常一』(河出書房新社)、『領土消失』(角川新書)、『奪われる日本の森』(新潮文庫)、『森林セラピー』(朝日新聞出版)、『森林医学』『森林医学Ⅱ』(朝倉書店)など多数。


