巨大中国大使館の建設が承認された経緯とは

 現在の中国大使館はロンドン・メアリルボーン地区にあるが、非常に狭く、ロンドン各地に窓口が分散している。中国政府としては、新しい大きな大使館を建設することで、現在7か所に分散されている領事機能を統合させたい、という。

 中国政府が土地を購入した2018年当時、テリーザ・メイ政権で外相はボリス・ジョンソン。英国政府は中国のこの「投資」を歓迎しており、当時の駐英大使・劉暁明も「中英黄金時代の新たな章を開く」と述べていた。

 だが、2022年に具体的な大使館建設計画申請が地元タワーハムレット区議会に提出されると、地元区議たちは区民の暮らしや歴史建造物保護を理由にこの申請を否決。住民たちは中国大使館できると反中派の抗議活動が頻繁におこり、静かな生活を妨害されると考えて反対するものが多かった。 

中国寄りとされる英スターマー首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 また当時、中国が香港の一国二制度を破壊した問題や、ウイグル人に対するエスニッククレンジング問題が英国の人権活動家たちの関心を集めており、中国に対する世論の反発も高まっていた。

 さらに保守党の安全保障関連の研究チームは、国家安全や金融安全、民主主義的価値観への脅威から、ロンドンの金融街の真ん中に巨大すぎる大使館の建設に反対する声も上がってきた。

 2023年には保守党の国会議員らと繋がりのある英国人の議会調査員クリストファー・キャッシュや元中国教師のクリストファー・ベリーが、北京に英国の安全にかかわる機密情報を流したというスパイ罪の疑いで逮捕される「クリストファー・キャッシュ事件」が起きるなど、中国への警戒感が増していた。彼らはスターマー政権になると不起訴になった。

 こうしたことから中国大使館建設計画は2024年まで、事実上棚上げになっていた。だが親中派の労働党スターマー政権が7月に誕生すると、中国はチャンスとばかり再びこの大使館建設計画申請を提出。8月には習近平自らがスターマーに電話をかけて、大使館建設計画の承認を求めていた。

 本来、大規模な土地の活用に関する批准は地元議会の審議を経て決定するが、英国の法律では高度な国家重要性がある議論を伴う場合、英国政府の介入が認められている。タワーハムレット区議会は、議会が依然として中国大使館の計画案に対する審査権限を有する場合、「中国の申請を再度却下する」と表明。だがアンジェラ・レイナー副首相兼住宅相は中国大使館建設計画に支持を表明。2025年は地元と英国政府が対立する形で審議は延期された。

 2025年末、「LinkedIn」などのプラットフォームで中国が「ヘッドハンター」を装い、英国の政治分野で働く人材を標的に内部情報を入手しようとしているという状況をMI5が警告したこともあって、とりあえず審議延期で世論の動向を様子見したようだが、一部メディアは、すでに英国政府は承認する意思を固めていたと報じていた。

 さまざまなネガティブな要因がある中で、だがスターマー政権はこのメガ大使館建設の申請を承認する決断をしたのはなぜか。