AIリテラシーを「第5のリテラシー」と宣言した香港大学
「6. ポリシー・ガイドライン作成」は、これまで紹介したような各種の対応を、構造的なルールとして定めるという対応だ。
たとえば前述の上智大学の例では、AIの禁止・違反者への懲罰が打ち出されたのは2023年3月だったが、その後、同大学は2025年11月に「教育における生成AI利用に関するガイドライン」を発表し、単なる禁止だけではない包括的・構造的な対応方針を示している。
同じく前述のNUSによる対応方針も、AIの利用申請に加えて、大学としての基本方針・教員向けの利用ガイドライン・責任の所在といった包括的な内容となっている。
こうしたルールの構造化は、急速な変化を続ける技術・教育環境に合わせて対策を打ち出していく上で、欠かせない土台と言えるだろう。
(D)構造的に取り込む
そして4つ目、右上の象限は「構造的に取り込む」という方針だ。AIを教育から排除するのではなく、積極的に統合する。それも後追いではなく、将来を見据えて変革に取り組むという対応になる。
「7. AIリテラシー教育の推進」は、「AIを使わせない」から「AIを正しく使いこなす能力を育てる」へ転換する施策である。即効性はないかもしれないが、他の各種施策の実効性を高める、重要な存在と言えるだろう。
この施策は比較的実施しやすいことから、右上の象限の中で最も推進されている。したがって事例はいくつも存在するのだが、たとえば香港大学を例に挙げると、同大学は上智大学とほぼ同時期の2023年2月に、ChatGPT使用の全面禁止を打ち出している。
もっとも、同年6月には包括的な生成ポリシーを発表し、AIを口頭、筆記、視覚、デジタルに次ぐ「第5のリテラシー」と宣言。全教職員・学生にChatGPT、Microsoft OpenAI、DALL-Eへの無料アクセスを提供すると共に、リテラシー教育に乗り出しており、学部生の大半にAIリテラシーの授業を必修化している。
「8. AIの教育活用」は、文字通りAIを教育の「敵」ではなく、「味方」として積極的に取り込もうという方針だ。
授業やテスト等においても、学生がAIを使った課題作成や回答を許可し、その上で「AIをより上手く・適切に使う能力」や「人間にしか担えない役割を遂行する能力」の育成を追求する。また学生が使うAIツールを大学側から公式に提供することで、彼らが接するAIを一定のコントロール下に置けるようになるという狙いもある。
大学が公式にAIツールを提供するという事例は既にいくつも存在しており、たとえばハーバード大学のコンピューターサイエンス入門講座「CS50」で導入されたAIチューター「Duck」は、コーディングに関する質問やバグ(プログラム上の不具合)特定を支援してくれるチャットボットだ。
一般のAIチャットボット、たとえばChatGPTなどと異なり、このAIは「学生が自力で答えに辿り着けるよう誘導する」ようにカスタマイズされているという。
日本国内でも、東北大学の学内専用生成AIサービス「Tohoku University GAI」のような事例や、独自AIの開発ではないものの、OpenAIの「ChatGPT Edu」(大学などの教育機関向けに特化して設計されたChatGPTの提供形態)を導入して学生向けに提供する事例(滋賀大学、新潟大学等)などが生まれている。
ツールを入れれば終わり、では当然なく、その上で「生成AIの存在をベースとした教育のあり方」を模索しなければならないのだが、それでも公式のAI導入は重要な一歩となるだろう。