監視国家

 経済的に豊かになっても、治安が悪く、いつ暴動が起こるか分からないような状況では、国民は平穏な生活を送れない。

 そこで、中国政府は、不満分子が抗議活動などを起こさないように、徹底した監視と強権的な取り締まりを実行している。

 今ではスマホが全国民に行き渡り、皮肉なことにそれを武器にして中国共産党が国民を完全に監視することに成功している。そのおかげで、犯罪や交通違反などが激減し、政権批判を生業としないかぎり、普通の中国人にとっては、「幸福な監視国家」が生まれている。それはジョージ・オーウェルの『1984年』が描くディストピアでもあるが、国民が不満を募らせているわけでもない。

 中国国民が強権的な当局による監視と抑圧の体制を甘受しているのは、文化大革命の惨事の再来は絶対に嫌だという思いがあるからである。言論の自由の制限などが多少はあっても、治安を維持し、暴動を防ぎ、国内を分裂させないことを優先させるのである。平穏にビジネスができる環境を人々は求めている。

 改革開放政策を展開し、経済について「黒い猫でも白い猫でもネズミを捕るのが良い猫だ」と述べた実利派の鄧小平にしても、政治的統制の手綱は緩めなかった。

 中国共産党は、建国以来、「工業、農業、国防、科学技術」の「4つの近代化」を政策目標として掲げてきたが、民主活動家の魏京生が、1979年の初めに「4つの近代化」に加えて、「第5の近代化」として、「政治の近代化」つまり、政治の民主化を求めたのである。

 これに猛反発した鄧小平は、①社会主義の道、②プロレタリアート独裁、③共産党の指導、④マルクス・レーニン主義と毛沢東思想という「4つの基本原則」を堅持することを明言し、3月29日、反革命罪で魏京生を逮捕した。

 さらには、1989年の天安門事件では、戒厳令を布告し、政治的自由を求める学生たちを武力で鎮圧した。「4つの基本原則」に反する行動だからである。この「4つの基本原則」には、習近平も忠実であり、それに違反する行動は断固として弾圧する。

 習近平は、2012年11月17日に、第18期中央政治局第1回グループ学習会において、「中国の特色ある社会主義の堅持と発展をしっかりと中心に据えて第18回党大会の精神を学習・宣伝・貫徹しよう」という内容の談話を行ったが、その中で、以下のように述べている。

<中国の特色ある社会主義の理論体系は、マルクス主義の中国化の最新の成果である。その中の鄧小平理論、「三つの代表」重要思想、科学的発展観はマルクス・レーニン主義、毛沢東思想を堅持し、発展させ、受け継ぎ、刷新したものである。マルクス・レーニン主義、毛沢東思想は絶対に捨ててはならない>

 習近平は、経済的な果実と安全の保証という「甘い蜜」を国民に与えると共に、共産党独裁という大原則に逆らう思想や行動に対しては、厳しく鞭打つのである。