新型防空ミサイルの登場と狙い

(1)新型防空ミサイルはロシアの「S-500」か

 北朝鮮は2025年11月28日、航空隊創設80周年記念式典を行い、空軍基地ハンガーの中に、「Su-25」攻撃機、「MiG-2」9戦闘機、各種無人機(米国製無人機酷似2種類)、そして、3種類の防空ミサイルを配置していた。

 3種類の防空ミサイルは、ミサイルの搭載車両とミサイル発射筒の形状が、ロシア製のS-300、S-400、S-500に酷似している。

 このなかで日本や欧米の軍事関係者注目しているのはS-500なのだが、なぜかミサイル発射筒の部分が切れて見えないようになっている。意図的に見せないようにしているのだろう。

 北朝鮮はこれまで、S-300とS-400を軍事パレードに登場させ、発射実験も行ってきた。だが、S-500とみられる防空ミサイルは、北朝鮮で初めての登場であると私はみている。

写真4 左:航空隊創設80周年記念式典での防空兵器 右:実験時の新型防空ミサイル

出典:朝鮮中央通信

 北朝鮮は2025年12月24日、新型の防空ミサイルの実験を初めて行った。高度200キロの目標に命中したという。

 右の実験時の写真には新型ミサイルの全体像はなく、式典の時にあえてトリミングした部分の一部だけが写っている。

 北朝鮮の新型防空ミサイルがロシアのS-500ではないかと判断できる理由は、展示された写真の映像と実験時の写真および高度200キロ(射程200キロ)の数値を重ねた結果である。諸元が完全にロシアのS-500と同じだからである。

写真5 ロシア製S-500防空ミサイル

出典:ロシア国防省

 写真が切れている理由は、北朝鮮としては新型防空兵器がS-500だと認められたいものの、一方であまりに形状が似ているのでロシア製のコピーと言われたくないためではないだろうか。

(2)S-500の形をした防空ミサイルが北朝鮮にある理由

 ロシアはS-500防空ミサイルを開発したものの、量産態勢に入る前にウクライナ戦争に突入したために、1~2セットしか製造できていないといわれている。

 ウクライナ軍によれば、そのうちの1セットは、クリミア半島に配備されたという情報がある。

 なぜ、ロシアでもわずか1~2セットしか製造していないミサイルが北朝鮮に存在するのか、そして実験を実施しているのか。

 その理由は、2つ考えられる。

①北朝鮮が得意の模倣で車両発射台(TEL)を製造したものの、ミサイル自体はS-300かS-400。

②ウクライナ戦争で防空劣勢のロシアが、北朝鮮に技術支援し北朝鮮で製造・実験を行っている。

 どちらの可能性が高いのか。

 ロシアは、これまでの歴史的経過をみると、最新兵器を中国や北朝鮮に提供することはなかった。

 だが、今はロシア国内の防空は、モスクワを除き十分に機能しているとは言い難い。このままだと、ロシアの重要施設が破壊され続ける恐れがある。

 したがって、技術の漏洩を心配するよりも、国内の防空能力を高めることの方を優先しているのではないか。

 そのため、ロシアから設計図、製造機材、材料、研究者を北朝鮮に派遣して製造している可能性は十分にある。

 ロシアの最先端技術である偵察用の徘徊型無人機でさえも、北朝鮮で大量に製造している。

 このことからしても、最先端の防空ミサイルをやむにやまれず北朝鮮で製造している可能性は高い。

 ほかにも理由がある。

 防空ミサイルをウクライナ戦争の前線から遠く離れたシベリアで製造するなら、北朝鮮で製造した方が少し遠いだけでウクライナの攻撃にさらされる危険性はない。

 技術的に不安はあっても、ウクライナに攻撃される心配のない北朝鮮が候補地に選ばれたのではないか。

 防空ミサイルシステムを製造するには通常、1セットの製造に1~2年かかる。一刻も早くこのミサイルを製造したいロシアとしては、ロシア国内で製造するだけでなく、北朝鮮にも製造させて調達数を増やしたいのだろう。