自分で自分を追い込む決断

 そのほか、筆者が考える坂本選手の独自性を、二点紹介したい。

 一点目が、中野園子コーチと、21年間にわたる師弟関係を続けてきたことである。4歳から現在に至るまで、坂本は中野園子コーチの指導を受けてきた。

 成長の過程でコーチを変えたり、海外を含めて練習拠点を変える選手は少なくない。浅田真央さんや羽生結弦さんは海外のコーチの指導を受けていた時期があるし、昨年末の全日本フィギュア3位に入り、ミラノ五輪代表に選ばれた千葉百音選手は、シニアに上がる前に、練習拠点を地元の仙台から京都(木下アカデミー、現・木下グループ)へと移している。

 一方、坂本は、生まれ育った神戸を拠点に、一貫して中野コーチとともに歩んできた。中野氏は厳しいコーチとして知られ、坂本は幼いころ「泣いてばかりいた」と述懐しているが、21年間の継続性が、坂本にとってはいい方向に作用しているのだと感じる。

2025年12月19日、フィギュア全日本選手権・女子SPの演技を終え、中野園子コーチ(右)に迎えられる坂本花織(写真:共同通信社)

 もう一点が、「勝負へのこだわり」である。スポーツではあるが、フィギュアスケートは個人競技なので、「自分の力を出し切りたい」「自分の満足する演技をしたい」と、他者との闘いの前に、自分との闘いであることを強調する選手は多い。

 坂本もそうである。同時に、全日本フィギュアの前は「ジュニアの子たちに勝ちたいし、自分の力も発揮したい」と言葉にしたように、勝負への言及も少なくない。勝って泣き、負けて泣く。そうしたエモーショナルな闘志が、勝利を呼び込んでいるのだと感じる。

 坂本は今シーズンでの引退を表明した上で、ミラノ五輪に臨む。これもまたフィギュアスケート界では異例のことだ。「自分に活を入れるため」に引退を表明したと明かしている。自分で自分を追い込む決断をする。それもまた、坂本の強さだろう。