SNSでの批判は承知の上、でも「自分のやり方を貫く」
では坂本はどのようにシニアで勝ってきたのか。
坂本を語るとき、トリプルアクセル(3回転半)や4回転などの「大技」はない、とよく言われる。大技ではなく、技の完成度やスピードで勝負する選手だと。
その通りなのだが、この事実は、坂本がスポーツ選手として安定や現状維持を求めているということでは決してない。目に見えてわかりやすい大技への挑戦はないぶん、坂本は細かな挑戦を重ね、結果を出し続けてきた。
例えば、連続ジャンプを得点が高くなる後半に持ってくるとか、世界的な振付師・ブノワ・リショーといち早く組んで、難易度の高いプログラムで世界にアピールするなど、高得点をとるための取り組みを重ねている。
2025年12月19日、フィギュア全日本選手権・女子SPで演技する坂本花織(写真:共同通信社)
さらにいえば、坂本はトリプルアクセルの練習をしていたと明かしている。トリプルアクセルの練習をすることで、そのほかのジャンプにいい影響が出たとしつつも、試合に入れられる完成度には至らず、大技なしの自分のやり方を貫くと決めたそうだ。
幅のある大きなジャンプを跳ぶ坂本こそ、高難度ジャンプも跳べそうに感じてしまう。しかし実際は、その大きなジャンプの質を保ちながら、高難度ジャンプを完成させるのは至難の業ということなのだろう。
ただ坂本は、大技がないことに対するネガティブな意見があることを承知しているとも語っている。SNS時代において、さまざまな葛藤があったことが想像されるが、その上で、我が道を行くと決める。この決断は、大舞台で力を発揮する心の強さにつながっているような気がする。
なお、坂本選手に大技がないと強調されがちなのは、日本の女子フィギュアスケートには、大技に挑戦してきた輝かしい歴史があるからでもあると思う。
伊藤みどりさん、浅田真央さん、中野友加里さん、紀平梨花選手、ミラノ五輪に出場が決まった中井亜美選手、年齢制限で今年の五輪には出られないものの、先の全日本フィギュアで技術点では坂本選手を上回った島田麻央選手……。
現在はトリプルアクセルを跳ぶ海外の選手も増えたが、その歴史を切り開いたのは日本人女子選手であり、その歴史は確実に受け継がれている。大技は、フィギュアスケートに限らず“必殺技”が好きな日本人に刺さる面もあると感じる。
一方で、坂本花織は、大技で魅せるのとはまた別の、よく滑り遠くに跳ぶ、ダイナミックなフィギュアスケートを切り開いてきた。これもまた挑戦と言わずしてなんと言おう。