「自給率」にこだわっても意味がない

野口:食料安全保障は当然真剣に考えるべきですが、単に「自給率」だけに注目しても意味がないと思います。そもそもこの前提自体を問い直すべきだと考えています。日本はエネルギーも労働力も種の大半も機械の部品も肥料も海外から輸入しています。米を作るための前提自体が海外に依存しているのに、コメと土地と経営者だけ国産でもほとんど意味を成しません。

 食料安全保障を言うのなら、自給率のような数値目標ではなく、食料はもちろん、こういった品目を特定の国だけに依存せず、複数の供給ルートを確保することが重要です。要するに外交による仕入れ先の分散こそが最大の食料安全保障だと私は考えます。単に食料の自給率という数字だけで判断すべき問題ではありません。

 むしろ、食料安全保障においては、先ほどお話ししたよう、担い手となる「農業の魅力を底上げする」ことにこそ注力すべきです。農業の社会的な価値が上がらなければ、離農者は増え、食料を生産できなくなる未来が待っています。

──野口さんは「1本5000円のレンコン」をブランディングし、海外でも成功しています。日本のコメの海外での需要は大きいとお考えですか。

野口:大きいと思います。日本食は今、世界中でブームになっています。特にアメリカでは所得1000万円以上のアッパーミドル層の食に対するこだわりが強く、大きな商機を感じます。ヨーロッパも同様ですし、急成長するインド市場も面白いと考えています。

 重要なのは先に関税を撤廃し、こちらが先に門戸を開くことで相互開放を迫ることです。これによって国際的なルールをようやく日本側が本気で使える条件が整います。コメの関税を完全に撤廃することで、WTOのルールを逆手にとって「我々がこれだけ開いたのだから、そちらも同じ条件で開け」と言えるようになるのです。

 これで相手国にも日本市場の要件を内面化させられる。要するに日本のコメの特性に合わせた市場を相手の国に作ることを真正面から要求できるようになるわけです。

 一方で、アメリカなどから安いコメをもっと日本が輸入することにより、国産米にこだわらない消費者や価格に敏感な消費者は、安いコメを買えます。アメリカのコメ農家は大喜びするのではないでしょうか。こうした交渉材料をうまく使い、日本のコメの輸出拡大にもっと舵を切るべきです。

 私もレンコン農家として、高級レンコンのヨーロッパやアメリカへの輸出実績があります。日本の農作物の品質は、世界と比較しても非常に優れており、高くても買いたいというニーズは大きいのです。まして、日本のコメの品質は世界随一でしょう。

 例えばロマネ・コンティのワインは1本数百万円から、高いと1000万円を超えますが、使っているブドウはブルゴーニュ地区で一般的なピノ・ノワールです。それでも、畑の広さが1.8ヘクタールしかないから希少性があり、ブランドも確立していて、高くても売れます。そういう突出した存在があると、価格のピラミッド構造が成立し、他のワインの価格も上がる。

仏ブルゴーニュ地方の特級畑で生産されるロマネコンティ(写真:REX/アフロ)

 例えば「魚沼コシヒカリ版のロマネ・コンティ」みたいな畑ができたら、日本のコメの価値も価格もずっと上がるでしょう。

 寿司は世界で一般化していて、中東や東南アジアの高級店が、豊洲の最高の魚をとんでもない値段で買い付けています。コメで同じことがなぜできないのでしょうか? 今は日本米が正しいマーケットで適正な販売されていないと感じています。美味しいお米を、相応の値段で売るべく努力すべきです。

──著書では輸出に際して、農水省が「日本文化局」をつくり、日本の農作物を総合的にブランディングすべきだと主張されています。