宅間守と獄中結婚したAさんの覚悟
篠田:宅間と結婚したAさんはクリスチャンで、一種の博愛主義から宅間と獄中結婚をしたようです。
宅間は逮捕後も被害者や遺族を罵倒するほど社会的憎悪の感情が激しい人でしたが、Aさんはもう少し人間性を取り戻してから亡くなってほしいと考えたようで、宅間に対して遺族に謝罪してほしいという思いもあったようです。ですから、いわゆる恋愛感情とは異なりますね。
宅間の死刑が執行された後、Aさんは「夫に代わってお詫びします」と被害者や遺族に謝罪の言葉を述べました。ただ、遺族にしてみれば、それは受け入れがたかったようです。
自分の行為を反省するどころか、「ガソリンを使えばもっと子どもたちを殺せたのに」と非道なことを言っていた宅間ですが、妻には本心を語っていたようで、「執行されたら、遺骨ではなく遺体のまま外に出してほしい」と伝えたり、刑務官に「ありがとうって、僕が言ったって(妻に)伝えてください」と言ったりもしています。
大きな事件を起こして死刑を宣告され、今更「自分が間違っていた」という自己否定はできない。死刑囚の多くはそうした気持ちを持っています。
宅間は死を覚悟であれだけ凄惨な事件を起こしていますから、世間に向けて後悔はないという顔を貫きましたが、実際は心の揺れがあって、妻にはわりとそうした部分も見せているのです。「執行されるまで離婚しないでほしい」とも言っています。
被害者側からしたら宅間が人間らしい死を望むなんてとても我慢ならないでしょうが、あれだけのことをやってしまった人にも、やはり人間的な感情は残っている。だから、死に直面したときに、さまざまなことを考えるのだと思います。
そうした状況下で心を許して話せる相手が妻なわけで、死刑囚のある種の本音をすくい上げることができるという意味でも獄中結婚には意味があります。
──宅間は子供の頃から感情のコントロールができなくて、周囲の人間を傷つけてきました。拘置所のアクリル板越しでなかったら、夫婦の関係も続かなかったのではないでしょうか。
篠田:そうでしょうね。普通の夫婦の関係はできないでしょう。ただ宅間が妻に送った手紙を読ませてもらいましたが、「無償の愛を捧げてくれる人は初めてだ」という言い方でAさんを評しています。彼は社会から疎外されて生きてきただけに、自分と一緒になるという妻に信頼を寄せていたのだと思います。
今でこそ獄中結婚は知られ始めましたが、Aさんが宅間と結婚した頃はそうした前例がまだあまり見当たりませんでしたから、Aさんの覚悟は相当なものだったと思います。反対する家族の籍からも抜けています。すごい女性だと思います。身内や世間から非難されてまで獄中結婚をしたAさんに、あの宅間でさえ心を打たれた印象があります。