私の中国の知人にも、来年2月の春節に東京へ来る予定だったが、「やむなくキャンセルして韓国へ行くことにした」と連絡してきた人が、すでに2人(2組)いる。それぞれ、江原道のスキーツアーと済州島の保養に行くという。
1年前に中国の若者の間で流行った「韓国デモ体験ツアー」
実は、昨年のいまの時節にも、中国人の血気盛んな若者たちの間で、にわかに韓国旅行がブームになったことがあった。それは、私が勝手に名づけたのだが、「デモ体験ツアー」である。
昨年12月3日、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領(当時)が、深夜に突然、「戒厳令を発動する」と発表した。これに反対し、尹大統領の「弾劾(だんがい)」(解任)を求める韓国の市民たちが立ち上がり、連日、ソウルを始め主要都市で大規模デモを展開した。
今年1月、ソウルの繁華街・明洞で尹錫悦大統領の「即刻免職」を求めて行進するデモ隊(写真:共同通信社)
すると、韓国旅行に行った中国人青年たちが、次々と写真を付けてSNSで発信するようになった。
「韓国旅行へ行って、反政府デモに参加したら、とても痛快だった!」
中国経済の長期悪化に伴い、多くの中国の若者たちは、ストレスが溜まっている。そうかといって、自国でデモなど起こしたりしたら、自分の人生に自ら終止符を打つ羽目になる。それが、隣の韓国へ行けば、「憧れの反政府デモ」を、正々堂々と体験できるというわけだ。
こうした「体験者」は、日増しに増えていき、ついには中国当局もSNSでの「韓国デモの発信」を取り締まるようになった。同時に、ソウルの中国大使館は、韓国旅行に来た中国人に「デモ参加禁止令」を出した。「身の安全を損なうリスクがあるため」というのが、表向きの理由だった。