スケーターであり続けること

 友野は、シニアに上がる前から「踊れる選手」と評されるように観る者を惹きつける演技を見せてきた。シニアに上がると、その持ち味とともに何度も輝きを放った。

 やはり外せないのは、3度出場した世界選手権の中の2回、「代打」として出て、好成績を残したことだ。一度目は2017-2018シーズン。このとき、補欠の二番手であったが、代表だった羽生結弦が怪我で欠場が決まり、補欠一番手だった無良崇人が辞退、友野が出ることになった。するとショートプログラム、フリーともに自己ベストを更新、5位となって翌シーズンの世界選手権における日本の出場枠「3」の確保に大きく貢献した。

 2021-2022シーズンも補欠二番手であったが、羽生が怪我で欠場、三浦佳生も怪我で出られず、友野が出場することになった。しかも急な話であったため、別の国際大会に出てその3日後に世界選手権という異例の日程となった。その中で6位となり、やはり日本の出場枠確保に大きな役割を果たした。ここ一番での存在感を示した。

 そのシーズン、北京オリンピックを観戦し、日本代表選手たちを応援する中で感じたことがあった。

「いちばん足りないのは、懸ける思い、気持ちだと感じました」

 それに先立つ2021年春、大学を卒業したことも、覚悟を促した。

「(スケート界に)残ったのはほんと、自分1人で。みんなは社会人として会社に行ったりしているのに自分はスポーツばかりやっていていいのかな、と。『ふつうって何だろう』と考えたこともありましたが、友達から『好きなことができるのは貴重、なかなかない』と言われました。でも僕は社会で働いているほうがすごいと思う。学生の顔を持つ自分はいなくなったし、逆に甘えがなくなりました」

 それらの思いが、この4年の歩みの支えにあった。資金面での懸念に直面しても模索し、環境を整え、スケートに励んだ。そしてその取り組みに悔いがないから、こう語る。

「結果にはつながらなかったですけど、成長できる素敵な4年間で、一生忘れることがないと思います」

 成長を実感できるから、「これから」について質問を受け、答えに逡巡する。

「競技として取り組むことによって成長できることもたくさんあるし……。まだ上手くなっちゃってるなぁってぶっちゃけあるので」

 一つ、迷いがないのは「スケーターであり続けること」。

「競技はちょっと分からないですけど、でもスケーターとしての自分の道は終わらないですし、友野一希というスケーターを今後、もっともっと磨いていきたいです」

 大会でも、あるいはアイスショーでも、友野は「魅せる」ところで存在を示してきた。そこにも深みを増してきた。そしてさらに突き詰めていこうと考えてもいる。

「スケーターの価値っていうのは自分で作り出していくものだし、オリンピックだけじゃないと思います」

 そして、こう語る。

「(ここまでの歩みを)めっちゃ誇りに思います」

 結果にはつなげることはできなかった。でも、努力を重ねてきた日々はたしかな手応えとしてあり、これからへの糧となる。

 その財産とともに、スケーターとしてこれからも歩んでいく。全日本選手権で見せたのは、これからも変わることのないスケートへの情熱と、進化を求めてやまない姿だった。

 それをぶつける舞台はある。友野は1月21日から25日にかけて行われる四大陸選手権の代表に選ばれた。そこで示す演技もまた、次へとつながっていく。

『日本のフィギュアスケート史 オリンピックを中心に辿る100年』
著者:松原孝臣
出版社:日本ビジネスプレス(SYNCHRONOUS BOOKS)
定価:1650円(税込)
発売日:2026年1月20日

 冬季オリンピックが開催されるたびに、日本でも花形競技の一つとして存在感を高めてきたフィギュアスケート。日本人が世界のトップで戦うのが当たり前になっている現在、そこに至るまでには、長い年月にわたる、多くの人々の努力があった——。

 日本人がフィギュアスケート競技で初めて出場した1932年レークプラシッド大会から2022年北京大会までを振り返るとともに、選手たちを支えたプロフェッショナルの取材をまとめた電子書籍『日本のフィギュアスケート史 オリンピックを中心に辿る100年』(松原孝臣著/日本ビジネスプレス刊)が2026年1月20日(火)に発売されます。

 プロフェッショナルだからこそ知るスケーターのエピソード満載。さらに、高橋大輔さんの出場した3度のオリンピックについての特別インタビューも掲載されます。

 フィギュアスケートファンはもちろん、興味を持ち始めた方も楽しめる1冊です。