対ドルで高止まりしているルーブル(写真:ロイター/アフロ)
(安木 新一郎:函館大学教授)
2025年の外国為替相場を振り返ると、日本円や米ドルは弱く、反対にタイ・バーツやロシア・ルーブルは高かった。
タイ・バーツが上昇したのは、米国からタイに資金が移動したことが主な要因だ。もっとも、自国通貨高は輸出に不利で、貿易黒字が稼げないとタイのGDPは減ってしまう。また、両替して得られるバーツが少なくなるので、外国人観光客にとって不利で、旅行収支が悪化する。
一方、タイの政策金利は1.5%で、金利を下げれば貨幣供給量が増えてバーツ安になるものの、今度はインフレ率が上がってしまう。カンボジアとの国境紛争が激化する中、タイ政府・中央銀行はバーツ高対策にも苦慮している。
タイ・バーツとはまったく異なる理由で高いのがロシア・ルーブルだ。ロシアでは政府の外貨売りのせいで、民間に供給される外貨が過剰になり、ルーブル高ドル安状態に陥っている。
2022年にウクライナ戦争が始まるとルーブルは急激に売られたものの、外貨管理を厳格化し、また財務省が外貨を売ることで、ルーブルは上昇していった。2025年12月5日の為替相場は74.9ルーブル/ドルで、年初から49パーセント上昇した。また、中国元に対しても10.62ルーブル/元を付け、2023年2月以来の高値となった。
ロシア連邦政府の財源は、原油と天然ガスの輸出から得られる外貨収入に依存しているため、ルーブルが高いと、入ってきた外貨をルーブルに両替した時に、ルーブル建てで目減りしてしまう。円高になると輸出企業の利益が目減りするのと同じことだ。
実際、2022年と2023年のロシア連邦歳入に占める原油・天然ガス収入の割合は3割を超えていたが、2025年上半期には27パーセントに低下している。100ルーブル/ドルぐらいまでルーブルが安くならないと連邦財政は苦しい。
なぜ戦時下のロシア・ルーブルが外国為替相場で高くなるのだろうか。