「自分たちで独自のルールを作る」

 この差別化がうまくいった背景は、誰かの真似、誰かのゲームのルールに並ぶサービスを提供するのではなく、 「自分たちで独自のルールを作る」を信念にプラットフォームを開発したことにあります。

 これは、「ゲームのルールを自分たちで決められれば小さな会社でも戦える」と気づいたことがきっかけでした。

 先のゴールデン・サークルで言えば、「WHY」で「なぜ自分が、自分たちがこれをやるのか」「誰のためにやりたいのか」を掘り下げ、「HOW」で差別化できるポイントを探っていったイメージです。

 大切なことなので繰り返しますが、「WHY」に十分な時間をかけず、信念の準備不足のまま動き出すのはNGです。方向を誤り、差別化できずに終わる失敗パターンに陥ってしまいます。私が海外でうまくいっている広告配信プラットフォームの真似を考えてしまったのも、「早く収益を上げたい」と焦ったために軸がブレてしまったからです。

 この気づきは他のビジネス、あるいは個人の目標達成にも当てはまります。心から納得している「行動の動機=信念」があれば、それ自体が差別化の要素となるのです。

 例えば、私はプロダクトの構想を練るとき、次のように「WHY(なぜ)」「HOW(どのように)」「WHAT(何を)」を活用しました。

【popIn Aladdin】
WHY:家族が共に過ごす時間を増やし、思い出を作り、子どもの世界観を広げたい
HOW:日常にあるシーリングライトにプロジェクターを内蔵し、家の壁を大画面に変える仕組み
WHAT:世界初の照明一体型プロジェクター

【スイカゲーム】
WHY:小さな子どもでも親に勝てる「思い出の瞬間」を作りたい
HOW:4歳でも直感的にわかるシンプルな操作、親しみやすいかわいいデザイン
WHAT:誰もが夢中になれるパズルゲーム

【スマートバスマット】
WHY:家族の健康を日常的に守りたい
HOW:毎日欠かさず使うバスマットに体重計を組み込み、自然に計測できる仕組み
WHAT:数字を意識せず測定を習慣化できる、体重計一体型バスマット

 考え抜いた信念と、自分で納得できるやり方が決まれば、それは他との差別化の要素となります。だからこそ、ステップ⓪とステップ①には十分な時間をかけて取り組みましょう。

 他にも、日常的には、次のように活用できます。

【リスキリングのために社内の有志を集めて、朝の勉強会がスタート】
WHY:自由な時間を増やすために、各個人の生産性を高めたい
HOW:個人の専門性と経験知にAIを掛け合わせ、生産性を上げる方法を学ぶ

【今年こそ、本気で語学を始めたい!】
WHY:日本だけでなく、海外でも仕事ができる力を身につけたい
HOW:自分の語学レベルと、目的に合った学習方法を調べていく

 このように、差別化の方法が定まったら、次に重要なのが「わかりやすく表現すること」です。(第2回に続く)

程 涛(てい とう)プロフィール
issin株式会社 代表取締役CEO/連続起業家
1982年中国・河南省生まれ。東京工業大学(現・東京科学大学)卒。2008年東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻の修士在学中、研究成果のpopInインタフェースを基に、東大のベンチャー向け投資ファンド「東京大学エッジキャピタル(UTEC)」の支援を受けて東大発ベンチャー、popIn株式会社を創業。2015年中国IT大手のBaidu(百度)と経営統合。2017年世界初の照明一体型3 in 1プロジェクター「popIn Aladdin」を開発。4年間でシリーズ累計販売台数25万台を突破し、異例のヒット商品となる。2021年4月issin株式会社を創業。同年6月にpopIn Aladdin版「スイカゲーム」を開発。12月にNintendo Switchソフト「スイカゲーム」を発売し、累計1200万DLを突破し大ヒットゲームとなる。2022年4月日常生活に溶け込む体重計「スマートバスマット」をリリース。『日経トレンディ』(2022年12月号)の「2023年ヒット予測ランキング」で「ステルス家電」として2位にランキングされる。3年間で10万ユーザーを突破。2022年8月popIn株式会社代表を退任し
、issin株式会社のビジネスに集中する。