誰にでも分かる「非認知能力」の本質
一般に「非認知能力」とは「意欲、忍耐力、協調性、自制心、自己肯定感など、テストの点数やIQでは測れない内面的な力や心の持ちようのこと」を言います。
OECD(経済協力開発機構)の報告書「社会情動的スキル調査(Survey on Social and Emotional Skills、SSES)」(国際比較調査)における「社会情動的スキル」と同義などと称されることもあるようです。
これが子供向け、特にお受験など学齢前で俄かにもてはやされるようになったのは、労働経済学者ジェームズ・ヘックマンの主張が影響力を持ったとされています。
また、大人向けには中国系米国人の心理学者アンジェラ・ダックワース氏など、今世紀に入って伸長してきたポジティブ心理学(positive psychology)で重視されるGRIT=Guts(度胸)、Resilience(復元力)、Initiative(自発性)、Tenacity(執念)など「やりぬく力」がビジネスにおいて有効であるという指摘が影響していると言えるでしょう。
「ポジティブ心理学」で光の当たった新概念たち、例えば「ウェルビーイング」などは、周回遅れで日本でも役所が予算を付けたりしています。
例えば文科省の例を挙げておきます。
こういうものが出てくると、その下流でいろいろな企業や個人が動き始め、源流にあったポジティブ心理学はどこかに行ってしまい、予算以降の現実的な俗流対処が跋扈し始めます。
同じことが「非認知能力」でも典型的な形で起きており、中教審などで2周回半くらい遅れて単語が登場すると、その下流で新「怪釈」が跋扈し始め、さらにその下流で「珍ビジネス」の創業が見られるようです。
分かりやすい見分け方をお教えしましょう。
例えば、ホームページやパンフレットで「非認知能力は、客観的に数字で測ることができない能力のことです」などと書いてあるものは、まずもってまともな結果に結びつかないと思って外れないでしょう。
というのも、ヘックマンが元来言う意味での「非認知能力」は、小・中・高等学校や大学入試などで用いられる「ペーパーテスト」や幼児なども対象とする「IQテスト」、OECDが全世界の15歳生徒を対象に実施する学力テスト「PISA」などでは測れない「社会的」な「スキル」を指す言葉です。
一方で、忍耐力や打たれ強さなど、現代の「根性論」や「GRIT」が対象とするような「社会的情動」を数値評価する指標はいくらでも存在します。以下に、代表的なところを挙げておきます。
社会・情動・行動的スキルアセスメント(SEBA-J / BESSI)
「社会性と情動」尺度 (SES)
旭出式社会適応スキル検査 (ASA)
情動コンピテンス・プロフィール日本語短縮版
このように実在するものがまるで存在しないかのように装い(そもそも本人が知らない場合が多いらしい)「数値化不能」なナゾのスキル「非認知能力」で商売するらしい(?)俄か参戦の「教育系ベンチャー」が少なくないらしいようです。
我が国の困った実態が垣間見えます。
そこで、オーソドックスな数理教育の立場から襟を正すべく、子供がどのようなところで「非認知」こと「社会的情動」のフックに、トリガーが掛かっていくのか、実例でお示ししましょう。
端的に言えば「非認知能力」とか「社会的情動制御能力」とは、犬にも仕込める能力と思えばいい。
犬にIQテストができますか。できませんね。知能指数は「計測困難」ないし「計測不可能」です。
でも、「盲導犬」とか「麻薬探知犬」とか「遭難救助犬」とか、人間よりよほど立派に業務をこなす犬は調教可能ですね?
彼らは、嘘をつくことを知りません。すべてが真心、真実ですから、けなげでもあり、時にその活躍は感動的でもあります。
犬にも感情はありますし、自分の意見があります。
嫌だとなったら、テコでも動かず、ご主人に抵抗する散歩中の犬を見かけるのは稀なことではありません。
盲導犬や麻薬探知犬など「専門犬」が陶冶されているのが「社会的情動」の制御にほかなりません。
犬や猫にも人間と同様の「古い脳」すなわち大脳辺縁系、間脳、中脳などの中枢神経系があり、そこで多くの情動=エモーションが司られています。
人間よりはるかに雄弁なコミュニケーション能力を持つ犬や猫がいますよね。全身全霊で歓迎してくれたりすると、本当に心洗われます。
ここで犬とか猫という表現を、何か人間より下位の動物と誤解しないようにしてください。
ここでは、ヒトもサルも、イルカもクマも、共通して持っている「古い脳」つまりGRIT=Guts(度胸)、Resilience(復元力)、Initiative(自発性)、Tenacity(執念)などの発現において、ヒトよりはるかに正直でストレートな動物たちに学ぶべきことは決して少なくないことを強調したいのです。
以下では、そうした「非認知能力」ないし「社会的情動」への刺激を伴う「認知能力」=ペーパーテストでも測れる能力開発教材の実物をご紹介しましょう。
問題は東京大学で私自身が作成しているものです。ネタ元は「リンド・パピルス」から「塵劫記」まで様々ですが、すべて私自身が長年目を通してきた、各国数理の古典「原典」を参考にしています。