AIが経営者の力量と創造力を洗い出す

 AIは膨大な情報を瞬時に解析し、仮説を立て、複数のシミュレーションを生成するのです。人間が1週間かけて検討していた未来予測をAIは数秒で提示します。

 製造業ではAIが市場データを読み取り、生産ラインの構成を毎日変更するような動きも出てきました。

 医療ではAIが過去数十年分の症例を統合し、新薬候補を自律的に設計する研究も進みつつあります。これらは人間の作業では到達不可能だったスケールの仕事です。

 もちろん、AIがすべてをうまくやってくれるわけではありません。

 今回のRubyイベントに参加した一人は、AIが提案してくる案が多すぎて困ると言っていました。

 まるで豪華すぎるメニュー表を前にして選べなくなるような状態だと言い、思わず笑ってしまいました。これも本質的な問題ではあります。

 AIは可能性を提示しますが、選択し意味づけをするのは依然として人間です。つまりAI時代の競争力は、最終的には意思決定の質に帰結すると言ってもいいでしょう。

 今回のRubyイベントでまつもと氏が語ったように、コーディングそのものの意味が、AIによって変わりつつあります。

 コードを書くことが目的ではなく、何を実現するためにコードを書くのかという視点が、重要になってきているのではないでしょうか。

 方向付け、意図、価値の設計といった領域こそ、人間の役割が残り続ける場所です。

 技術の進化とともに仕事の本質が変わるのは、これまでの歴史が示してきたことでもあります。