《金魚を見る子供》1928年 東京国立近代美術館
(ライター、構成作家:川岸 徹)
何気ない日常をあたたかな筆致で描き上げた日本近代洋画家・小林徳三郎(1884-1949)。約300点の作品と資料から、徳三郎の画業の全貌をたどる。
林芙美子ら文化人が愛した画家
美術史に偉大な足跡を残した巨匠画家の名画を鑑賞する時間も楽しいが、知名度は決して高くはないものの、心をふっと持っていかれるような作品に出会えた瞬間の喜びは何物にも代えがたい。
東京ステーションギャラリーにて、初となる大規模な回顧展が開幕した「小林徳三郎」は知る人ぞ知る画家。日本近代洋画の改革期に活躍したというが、知っている人はそれほど多くはないだろう。教科書に載るような有名作を残したわけではなく、同世代の画家・藤田嗣治のように時代の寵児となったわけでもない。
だが、心惹かれる魅力的な作品をいくつも残している。庶民的な魚を大胆かつ丁寧に描写した《鰯》、息子が金魚を眺める日常風景の一コマを描いた《金魚を見る子供》。徳三郎の作品はあたたかくて、素朴で、心地いい。
『放浪記』で知られる作家・林芙美子は小林徳三郎を気に入り、画家の娘を描いた作品を購入した。小林徳三郎についてこんな文章を残している。
「私は、絵でも小説でも力作と云う部類のものを好きません。空気のはいった、生活のはいった何気ない作品が好きです」(林芙美子「絵とあそぶ」『林芙美子随筆集』岩波文庫より)

