米本土・西半球重視
ウクライナ戦争等の教訓と欧州の「文明喪失の危機」の反映
まず、米国の本土防衛は、ロシアによるウクライナ侵攻(ロシア・ウクライナ戦争)やイスラエル・ハマス戦争の教訓が反映されていると見て間違いない。
ロシア・ウクライナ戦争などでは、ミサイルとドローンによる長距離集中攻撃が戦場を支配する「ゲームチェンジャー」として戦争の帰趨に重大な影響を及ぼしている。
それらの教訓を踏まえ、東西を広大な海洋で隔てられ比較的安全な戦略環境にある米国は、その本土防衛において最大の軍事的脅威は、ロシアや中国のような強力な弾道ミサイルや極超音速滑空兵器などを有する国からの大規模な攻撃との認識をいよいよ深めることとなった。
その回答が、ドナルド・トランプ大統領が強調する「ゴールデンドーム」と称される大規模な次世代ミサイル防衛システムを構築することであり、米国本土防衛の中核をなす計画である。
本計画には、リモートセンシング、画像処理、無人航空機システム、コンポーネントの小型化、宇宙基地とその打ち上げプラットフォームなどの技術的進歩や課題解決に加え、産業基盤や技術者の確保などの裏付けが必要である。
同時に、開発・建設には何年もかかる可能性があり、今後その完成に向け大規模な投資が行われることになろう。
また、2025NSSは、欧州が「文明消滅の危機」にさらされていると警告した。
その理由として、経済的衰退や極右勢力と批判される「欧州の愛国的な政党」の影響力の拡大を阻止する政治的検閲などを挙げている。
特に、大量移民による人種入れ替えが危機の根本要因と批判し、大量移民の阻止を優先課題として指摘した。
この指摘は、米国を映す鏡あるいは自国への自戒を込めたものと理解され、欧州の「文明消滅の危機」を自らの問題と重ね合わせ、その解決が喫緊の課題であるとの認識を代弁させたものであろう。
そのため、2025NSSでは大規模移民の終結に加え、麻薬カルテルの阻止を米国の優先事項として焦点を当てるよう求めている。
米国が外部の脅威から自らを守る必要性を強調し、西半球を安全保障の重視正面とする政策に反映させるものである。
トランプ政権は、国内の治安の維持に必要として州兵を動員派遣し、メキシコ国境には大規模な「国境の壁」を巡らし数千人規模の軍隊を配置している。
カリブ海ではベネズエラの「麻薬運搬船」だとする船に容赦ない攻撃を加えるとともに、ベネズエラへの軍事攻撃もちらつかせている。
2025NSSは、大規模移民問題をはじめとする「西半球における喫緊の脅威に対処するため、世界における軍事プレゼンスを再編する」ことを要求しており、今後、同地域を重視した米軍の部隊展開が強化されるものと見られる。