なぜ欧州は相対的に軽視されるのか
米国の国家戦略(大戦略)は、世界の人口、資源、経済活動のほとんどが集中する「ユーラシアに地域覇権国の出現を防ぐ」ことを基本政策としてきた。
冷戦終結後は、米軍は2つの重複する主要な地域紛争または主要な地域緊急事態(MRC)を戦い、勝利できるよう規模が定められていた。
しかし、現在は、中国などの台頭による相対的な国力の低下を踏まえ、1つの主要な紛争を戦い、勝利すると同時に、特定の小規模な作戦も実行する方針に変更されている。
そのため、2025NSSでは「地域紛争が大陸全体を巻き込む世界戦争へと発展する前に阻止すること」を優先事項とし、「同盟国やパートナーと協力して、世界および地域の勢力均衡を維持し、支配的な敵対国(中国)の出現を防ぐ」(括弧は筆者)と述べている。
焦点は、あくまで対中国である。
つまり、ユーラシアにおける勢力分立の維持、すなわち中国とロシアが同調・連携する現状を否定し、分断することが喫緊の課題となっているのだ。
中国は、世界覇権の野望を追求する国力を着実に備えつつある。
一方、ロシアは核軍事大国ではあるが、名目GDP(国内総生産)が世界11位前後であることが示すように、世界覇権を追求するには総合国力が乏しく、いわゆる欧州における地域覇権国を目指すのが限度と見るのが妥当だ。
また、米国が11月に提示した28項目のウクライナとロシアの和平案には、「2兆ドル(約310兆円)規模のロシア経済を孤立状態から脱却させる道筋を描き、米国企業が欧州の競合他社を出し抜いて最初にその恩恵を受けられるよう構想していた」と米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ、2025.12.2付)が指摘している。
そのタイトル「『戦争ではなく金儲けを』トランプ氏の真の和平案」が示す通り、米国の関心は、すでに戦後のステップに移っている。
ロシア寄りの政策を採り、ロシアを豊富な経済的機会に満ちた場所としてレアアースやエネルギー関連の取引をちらつかせ、戦後復興や経済発展に協力する姿勢を示し、軍事的脅威ではなく、「平和共存」する国として中国との間にくさびを打ち込むことがトランプ氏の大統領就任前から練られていた戦略であると見られている。
こうして、2025NSSは欧州に「自己防衛の主要責任」を求め、北大西洋条約機構(NATO)の拡大を停止してロシアとの「戦略的安定の再構築」の必要性を強調したのである。
なお、詳述は避けるが、この考え方は、イスラエル・ハマス戦争の和平案にも共通している。
中東問題はもはや深刻な状態ではなく、「むしろ、この地域はますます国際投資の源泉と投資先になるだろう」と2025NSSが述べていることからも明らかである。