2025NSSが日本に及ぼす影響
2025NSSが、欧州は不法移民の抑制を怠っているため「文明の消滅」に直面していると主張していることに対し、ドイツは即座に「外部からの助言」は必要ないと反論した。
バイデン政権で欧州・ユーラシア担当の国務副次官補を務めたジャクリーン・ラモス氏は、「この政権は一貫したリーダーシップを発揮せずに同盟国に成果を求めている。ロシア政府は、米国が発する言葉と欧州の能力のあらゆるギャップを利用するだろう」と指摘した。
また、インド太平洋では、「米国第一主義」を基本原則とするトランプ政権の地域へのコミットメントに関する不透明、不確実性への懸念が拭えないのも否定できない事実である。
他方、中国外務省の郭嘉昆副報道局長は北京で記者団に対し、台湾は米中関係で第1の「レッドライン(超えてはならない一線)」であり、中国は外部からのいかなる干渉も許さないと強く反発した。
我が国にとって最大の焦点は、高市早苗新首相が11月7日、「(中国が)戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースだ」(括弧は筆者)と答えた「台湾有事は日本有事」にほかならない。
日米安全保障条約や平和安全法制に則った高市首相の答弁は、戦略的曖昧性や戦略的明快性の議論を別にすれば、全く批判の余地はない。
日米安保条約の第5条「日本防衛」は、我が国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が発生した場合、日米両国が共同して日本防衛に当たると規定している。
この際、我が国の施政の下にある領域内にある米軍に対する攻撃が、共同防衛に含まれている。
第6条「極東条項」は、我が国の安全は極東の安全と密接に結びついているとの認識の下に作られ、極東における国際の平和および安全の維持に寄与するため、米軍に日本の提供する施設・区域の使用を認めている。
政府の統一見解によると、極東の範囲は、フィリピン以北並びに日本およびその周辺の地域であって、韓国および中華民国(台湾)の支配下にある地域も含まれるとしており、台湾は明らかに日米安保の適用範囲に含まれている。
本条項のポイントは、極東の安全は日本の安全に結び付いているとの共通認識である。
その上で、極東の平和と安全を確保するため米軍が出動するのに、日本はなにもしないのか、それはいわゆる「安保ただ乗り」ではないかとの厳しい批判が我が国に向けられてきた。
それに応える必要性に迫られて作られたのが「重要影響事態安全確保法」であり、「武力攻撃事態対処法」への「存立危機事態」の追加である。
「重要影響事態安全確保法」では、米軍に加え、国連活動を行う外国の軍隊とこれに類する組織に対し、広範な後方支援を提供する対応措置が定められている。
「存立危機事態」は、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態とされ、限定的な集団的自衛権の行使を認めている。
中国が台湾の武力統一を実行する場合、最大の障害は米軍の介入であり、日米安保条約に基づいた日米両軍の共同行動にほかならない。
その中国は、日米安保の約束や平和安全法制の制定過程を注意深くフォローしてきたはずである。
高市首相の発言内容を全く知らないわけはなく、その反発や各種威圧行為は異常にさえ見える。
おそらく、他国の脅威を煽って国内の混乱から目をそらすとか、日本と米国、台湾を離反させ台湾を孤立させるとか、米国の国際的コミットメントの後退傾向を衝いて中国の影響力を拡大するとか等々、様々な思惑を込めて経済戦、外交戦、情報・宣伝戦を展開しているのであろう。
中国の威圧行為は常套手段ではあるが、我が国としてはその反日キャンペーンを恐れてはならず、また侮ってもいけない。
課題は、尖閣を焦点とした南西地域・台湾有事に、日米安保や平和安全法制が求める役割を十分に果たせるよう、自衛隊の実力を強化し、日米共同の実効性をこの上なく高めることである。
米国は、北大西洋条約機構(NATO)に国防費としてGDPの5%を求めている。今後米国は、2025NSS制定を契機として、日本や韓国など同盟国に同様の要求を突き付けてくるのは間違いない。
今回の中国による反日キャンペーンが反転して、日本国民の中国に対する脅威認識を高め、日本の防衛力の強化に関する理解と協力に繋がり、「災い転じて福となす」ことになれば、誠に幸いである。