筆者が、福岡県更生保護主労支援事業所長(2018年度、19年度)として、刑務所出所者等の就労支援に携わった際、闇バイトが看過できない問題であると感じたのは、少年院における就労支援であった。
当時17歳の少年の支援を行った際に、少年は「先生、おれ現金手渡しの仕事がいいです」と言った。
「今頃、現金手渡しの仕事はないよ」と伝えたところ、「おれ、UD(受け子、出し子)なんで、銀行口座つくれないんです」と言った。
詳しく聞いてみると、地元の先輩に頼まれて、知人から銀行口座を集めて渡していた。この口座が不正に売買されたことにより、後年、銀行の預貯金口座が開設できなくなった理由である。
母親が自分の子ども名義で口座を作り反社に売却
あるいは、福岡市内の保護司の方に聞いた話によると、母親が、学童期の子どもの通帳を作成し、その口座を反社会的勢力に売却していた。
そのため、母親の子である少年が、中学校を卒業後、アルバイトの給与振込口座を開設するために銀行に行くと、窓口で口座の新規開設を謝絶されたという。
そこで、少年は、近隣の知り合いの保護司に相談。保護司は少年を伴い銀行窓口に赴き、銀行に口座開設が出来ない理由を尋ねた。
銀行は、口座が違法に売買されており、犯罪に使われたと話したという。しかし、その事件は、数年以上も前だったこと、当時、口座開設を申し込んだはずの少年は学童期(小学生)であったことから、本社も巻き込んだ話し合いの末に、少年の銀行口座は無事に開設された。
結果オーライだが、当該少年が、保護司の知人を頼らなければ、銀行の預貯金口座の開設には至らなかったと思われる。
このように、闇バイト実行犯だけではなく、口座の売買等「特殊詐欺を助長する犯罪」に関与すれば、銀行の預貯金口座が開設できない事態に至る可能性が高い。そうなると、真っ当な就職は断念せざるを得ず、前述の17歳の少年のように、「現金手渡しの仕事」で食いつなぐことを余儀なくされるのだ。