経営者に求められるデータ活用のガバナンス
研究機関だけでなく病院や診療所も対象に明記されることで、医療AIの発展はさらに加速するでしょう。特に医療現場のAIは現場負担を軽減し、診断精度を向上させる可能性を持っています。
病院では、画像診断AIの学習には膨大なデータが必要ですが、これまで法規制の解釈が曖昧で運用が難しかったのです。
医師の方と会話した際にも、この領域のルール整備を求める声を強く耳にしてきました。
もちろん医療の領域では専門家の見解が不可欠であり、技術者と医療従事者が協力して慎重に制度運用を進めるべきです。
では、経営者はこの変化にどう向き合うべきでしょうか。
私は今回の改正案を、単なる規制緩和ではなく経営の覚悟を試す試金石だと見ています。
データ活用がしやすくなるということは、逆に言えばデータを適切に扱うためのガバナンス体制を持つ責任が企業にのしかかるということです。
どれだけAIを導入するかよりも、どれだけ透明なデータ管理を実現できるかが、企業価値を左右する時代になります。
消費者の信頼は一度失えば戻ってきません。同時に、AI活用が遅れれば企業の競争力が失われます。
この2つの力学の間で、経営者は巧みに舵を取らなければならないのです。
私は講演でよく、未来の経営者に必要な能力は技術の理解ではなく、技術の意味を読み取る力だとお話しすることにしています。
技術そのものはAIが補っていきますが、社会の期待や不安をどう受け止め、制度をどう運用するかという判断は人間の仕事です。
今回の法改正は、AI時代の日本社会をどの方向へ導くのかという問いを、私たち一人ひとりに突きつけています。
データの自由とデータの尊厳。
この相反する価値をどう調和させるのか。それはAIではなく、人間の熟慮に委ねられているのです。