保有データ量で世界に後れを取る日本

 特に日本は欧州のGDPR(General Data Protection Regulation=EUの一般データ保護規則)に近い慎重なデータ保護姿勢をとってきた歴史があり、今回の方向転換には賛否が分かれるでしょう。

 私はデータが少ない国のAIは、競争力を持てないという事実も理解しています。

 米国のグーグルやOpenAI、中国のテンセントやアリババは、膨大なデータを背景にAI開発を加速させています。

 それに対して日本企業はどうしても、保有データの少なさがネックとなり世界に後れを取る構造があります。

 通信事業者の技術者が以前、生成AIの精度を上げたくても社内データが使えないので学習が進まないと嘆いていたのを思い出します。

 法改正が進めば、こうした課題が一定程度解消される可能性があるのは確かです。

 しかし、ここで忘れてはいけないのは、データは単なる資源ではなく、人間の人生そのものだという点です。病歴、障害、犯罪歴といった情報は、個人の尊厳に直結するセンシティブな領域です。

 統計処理されるとはいえ、加工前のデータは企業や機関が一時的に扱うことになります。

 その運用に不信感が生まれれば、社会全体のAI利用への理解が揺らぎかねません。

 実際、私が講演先で学生や一般の方々に説明すると、多くの人が「目的がAI学習であっても勝手に使われるのは不安だ」と心配されます。

 このような制度変更の難しさは、技術と倫理、経済と個人の尊厳という複数の価値が交錯するところにあります。

筆者作成