円安修正に必要な理論的な利上げ回数
当面の動きに関して言えば、インフレ率が現在の+3%から▲1%ポイント下がって+2%程度で落ち着けば、10年債利回りが現在の1.9%程度だとすると、▲0.1%程度の実質金利となる。これは2022年1月時点の実質金利水準(▲0.3%程度)を若干上回る。
または、インフレ率が+3%で続いたとしても、10年債利回りが+2.7%まで上昇すれば、やはり2022年1月時点の水準まで戻る。現在の政策金利(0.50%)とのスプレッド(140bp程度)を前提とした場合、10年債利回りの+2.7%は政策金利1.50%程度までの引き上げをイメージすることになる。
もしくはインフレ率が+2.5%まで下がると考えた場合、10年債利回りが2.2%程度まで上昇すれば、2022年1月時点の水準まで戻る。これは政策金利1.00%程度までの引き上げをイメージすることになる。
政策金利1.00%や1.50%はあと2~4回の利上げで到達する水準だ。「円の実質金利の水準を2022年初頭に戻す」だけで円安が修正されるのであれば、それほど難しい話ではない。
とはいえ、現実はより複雑だ。実際は日本の実質金利だけ上がっても、①米国の実質金利が高いままの可能性があるし、高市政権発足に伴いインフレ期待が高まっていることを踏まえれば、②市場参加者が想定する日本の実質金利は容易には上昇しない可能性もある。
特に、後者に関しては足もとで現実味を帯びる。現に、日米実質10年金利差は今春に約400bpまで拡大していたものが足もとでは約200bpまで縮小しているが、円安は収まっていない。高市政権の志向するポリシーミックスでは、予測可能な将来においてインフレは収まらないという潜在意識が寄与していないだろうか。
もちろん、それでも2022年1月時点の実質10年金利差まで戻っていけば、いずれかのタイミングで非線形に円安が修正される可能性もある。ただ、2025年の「ドル安下での円安」を振り返ると、4~9月は米国との一蓮托生リスクで円安、10月以降は高市政権へのリフレ期待で円安というのが筆者のラフな解釈である。
現時点で前者は落ち着いたものの後者はまだ収まっていない。恐らく、高市政権へのリフレ期待が根強い状態が温存されたまま日銀が利上げに踏み切っても「これで終わりか」という打ち止め感の下、円売りが優勢になりやすいのではないか。