英雄アイ・アパエックとは?
「CREVIAマチュピチュ展」展示風景。「アイ・アパエックの顔を表した埋葬用仮面」西暦100-800年 © MUSEO LARCO LIMA - PERU
会場ではアンデス神話の英雄“アイ・アパエック”の冒険の物語が大きく取り上げられている。イラストやパネル、映像を用いた丁寧な解説が実にわかりやすい。アイ・アパエックの物語を簡単に紹介したい。
アイ・アパエックは西暦100~800年頃、ペルー北部の肥沃な谷を耕した指導者。彼は忠実な犬とトカゲを従え、アメリカハゲワシに乗り、沈みゆく太陽を海の果てまで追いかけていった。彼は太陽が沈むと、自分の土地が永遠に暗闇に包まれてしまうのではないかと恐れ、太陽を取り戻そうとしたのだ。
その冒険の中で、アイ・アパエックは様々な敵と戦い、新たな力を手に入れていく。海の入口の番人であるカニに勝利したときには、カニのような強靭で硬い脚の力を手に入れた。フグとの戦いからは暗闇で物を見る能力と深海を見通す力を授かった。
数々の戦いに勝利したアイ・アパエックだが、加齢とともに衰弱。海の最深部でサメ、エイ、アシカの要素を併せ持つ海の神と対決し、首をはねられてしまう。命を失ったアイ・アパエックは生ける物たちの地を去るが、大地と豊穣の女神パチャママと結合(性交)。彼女が持つ女性的な力によって再び完全な存在となる。生まれ変わったアイ・アパエックは故郷に帰り、生命の継続を確実なものにした。
アイ・アパエックの神話を知ると、展示品への理解度がぐっと深まる。アイ・アパエックの像にカニやフグの姿をしたものが多いのはなぜか、《祖先的存在間の性交》をはじめ男女の結合の場面を表した造形がつくられたのはどうしてか、といった疑問が解けていく。