それに加えて、世界中を巡る巨額資金は、一部の富裕層により所有され、格差が極端に拡大している。過去数千年の歴史を紐解くと、格差が極端に拡大して社会が不安定化すると、格差を是正するために金利を否定する動きや債務の帳消しが発生しているのに気がつく。現在の最低金利国リーグの金利水準が歴史的下限2%を下回り続けている理由の一つともみなしうる。
歴史を振り返ると時として叫ばれる「金利の否定」
昔から旧約聖書やギリシャ哲学者だけでなく、キリスト教会などは金利を徴収することの排除、すなわち「徴利禁止」を訴え、共同体(コミュニティ)の生活空間の安定を優先させてきた。大変動に見舞われた社会が安定を取り戻すために、歴史の節々で金利の存在を否定する動きが顔を覗かせるのである。
金利は、複利効果(運用益を再投資することで、「利息が利息を生む」状態となり、資産が雪だるま式に増えていく効果)を通して、コミュニティ内での持てる者と持たざる者の違いを鮮明に浮かび上がらせる。
ところが、この違いは格差の拡大となる。怨嗟と妬みにより、混乱の拡大と治安の低下を生み、社会の安定を阻害するだろう。地域内、共同体内の安定を回復させ、諍いや紛争の確率を低下させるためにも、金利の否定が時として叫ばれる時代が繰り返されてきたのである。
その極端な例としては、高利貸しへの反発や、社会の安定を保つ観点から「債務免除」や「返済猶予」が実施されてきた。金利は時に共同体の破壊者と見なされ、負債帳消しは、「金利が生む社会の歪み」を強制的に修正する調整弁として機能したわけである。
欧州に限らず日本でも、格差の拡大は社会体制の基盤を弱体化させることから、金利の否定にとどまらず、借金(負債)の帳消しにまで発展してきたのは、よく知られたところである。
鎌倉時代や室町時代には、借金で困窮する人々や、御家人を救済するために、しばしば「徳政令」が出されている。既に締結された貸借契約や売買契約を破棄したり無効したりする法令である。一部の貸し手である債権者の犠牲を払いつつ、多くの債務者の没落を防ぎ、社会の安定を図ろうとした。
江戸時代には、財政的に追い詰められた旗本・御家人を救済するために「棄捐令(きえんれい)」が出されている。旗本・御家人への貸し出しをしていた貸金業者に債権放棄や債務繰り延べを命じ、幕藩体制の根幹の揺らぎを防いだのである。