格差拡大拒否の動きとの連動も

 確かに金利は、取引の基準となって世界中をカネが効率的に移動するのに役立つ。見も知らない遠くの地域・共同体の人々とでも同じ基準で取引ができるというメリットもある。

 一方、金利の存在は、資金移動を加速させる推進力となり、しばしば金融市場の暴走を発生させる。現在は、グローバル金融危機の経験を踏まえ、金利の受け入れにより金融危機が循環的に発生するといったデメリットを拒否する動きが、格差拡大を拒否する動きと連動し始めていると考えると合点がいく。

 この仮説が正しければ、最低金利国リーグに加わる国は、コロナショック後のように再び増殖し始めることになるだろう。最近の貴金属価格の上昇は、そのシナリオを裏付ける動きかもしれない。金利が付与されないコモディティ(商品)と金融資産の格差が縮小するからである。

 数百年単位での金利のパターンからみると、2%割れの長期金利はやがて解消されるものの、数千年単位での金利否定の動きは、思いのほか最低金利国リーグの耐用年数を延ばすことになるわけである。

 にもかかわらず、政府や中央銀行に対する信認低下により、日本が最低金利国リーグを脱退するのは避けたいところではある。

平山 賢一(ひらやま・けんいち) 麗澤大学経済学部教授/東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト
1966年生まれ。資産運用会社を経て、1997年東京海上火災保険(現:東京海上日動火災保険)に入社。2001年東京海上アセットマネジメントに転籍、チーフファンドマネジャー、執行役員運用本部長(最高投資責任者)を歴任。2025年からは経済史研究を軸足に現代の金融市場を分析。メディア出演のほか、レポート・著書などを多数執筆。主著に『戦前・戦時期の金融市場 1940年代化する国債・株式マーケット』(日本経済新聞出版)、『金利の歴史』(中央経済社)、『物価の歴史』(中央経済社)などがある。

著者の近著『金利の歴史』(中央経済社)