香港が完全に「中国化」してしまった
今回の大火災については中国政府と国務院香港マカオ事務弁公室も、習近平国家主席の指示に応じ、28日早朝に中聯部主任ら幹部3人を含む被災者支援の作業チームを香港に派遣。中国政府が香港の災害に対応して作業チームを派遣するのは今回が初めてという。
彼らは、共産党主導のボランティア集団「関愛隊」による支援活動をサポートする一方で、市民の自由なボランティア活動の動きを監視、牽制するのも狙いだとみられている。かつて世界から注目されるボランティア文化、デモ文化を持っていた香港市民。だがその自由な集団活動を中国政府は恐れている。
李家超は記者会見で北京から作業チームが派遣された意味について記者から質問を受けた時、習近平国家主席に対する香港への配慮に感謝の意を示す程度の回答しかしていない。
結論を述べれば、この香港史上2、3番目を争う凄惨な大火災は、香港が中国大陸化したからこそ起きた人災である。その後の言論統制や中国政府の対応を見ても、香港が完全に中国化していることを再確認されたという意味で、二重に悲劇的な事件であった。
香港人たちは、この中国支配強化によってもたらされた悲劇をどう受け止めるのか、傷ついた心をどう癒して日常を取り戻すことができるのだろうか。
香港の「時代革命」運動がコロナ感染と中国と香港政府の暴力的な弾圧によって潰えたのち、市民はひたすら中国政府に従順に、不満の言葉を飲み込んできた。今後、さらに忍耐を強いられ続けるのだろうか。
せめて、この大火災の背後にある問題点を明らかにする努力を、ジャーナリズムの一端を担うものがあきらめないこと。それが、何よりもこのひどい大人災の犠牲者たちへの弔いになると思う。
福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト
大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。