「竹の足場」はどこまで火災の原因なのか?

 先の2つの大火災はいずれも燃料や危険な可燃物が大量にあったことが大惨事の原因で、当時の安全管理意識や消火設備や消防組織の未発達さもあった。だが1960年代に入って消防組織とシステムの整備が進むと大規模死者が出る火災は減っていった。

 香港は火災規模を1~5級に分けて、その等級に合わせて派遣する消防車や消防士の数を采配する。これは香港という人口密集地の狭い地域で効果的に消火活動を行うためのシステムだ。

 5級火災は60年代以降、ざっくり45~50件発生しているが、バラック密集地などが取り壊され、新しい都市開発が進むにつれ、大規模火災は希になっていた。

 それだけに2025年の現代化し整備された香港で、なぜここまでの大火災が、しかもマンションという日常の場で起きたのか、と多くの香港人が信じられない思いでいる。

 火災発生当日の夜、香港消防当局は延焼がこれほど早かった原因に、竹を組んだ足場であると説明した。これを受けて26日のうちに、業界はすでに、竹の足場をやめて金属足場を全面的に使用するようにタイムスケジュールと手順を討議したらしい。

 27日、中国の人気セルフメディア牛弾琴が「中国本土では基本的に金属製足場が竹足場に全面的に取って代わっているのに、香港ではまだ竹が使われている」と批判し、火災拡大の原因は竹の足場だと喧伝した。ちなみに牛弾琴は元新華社のベテラン編集者・劉洪のハンドルネームで、官製メディアに変わってネット世論を誘導する役割をしばしば担ってきた。日本メディアもこの影響をうけて、竹の足場が原因という説を主張する報道があった。

香港で建設現場の足場に使われる竹(写真:AP/アフロ)

 だが竹の足場は、狭い急斜面の多い地域に高層ビルを建てねばならない香港で伝えられてきた建築文化であり、一種の匠の技のような面もある。手入れの行き届いた十分に水分を保っている竹の足場は簡単には燃えにくく、丈夫だと信頼されてきた。多くの香港人は、香港当局と中国政府があたかも原因を「竹の足場」に転嫁しているような印象をもった。

 27日の当局者記者会見では、本来難燃性であるべき防護ネットが可燃性であったこと、また窓ガラス保護の緩衝材に使われていた発砲スチロールが延焼の原因と説明しはじめた。また27日未明、香港警察は「過失致死」の容疑で、修繕工事を担当した建設会社・宏業建築の取締役と工事コンサルタントら3人を逮捕した。28日までにさらに工事コンサルティング会社の男女8人を逮捕し、最終的に逮捕者は3日の段階で15人となった。

 火元も判明せず、捜索や調査もきっちりできていないうちに、原因を決めつけるかのような中国の世論誘導、建築企業やコンサル企業関係者の口封じでもするかのような大量逮捕などに、違和感をもつ市民は多い。

 28日には親中的香港紙大公報が、修繕工事の入札をめぐる談合、不正があった可能性を報じた。だが、その報道はすぐに削除された。この動きが何を意味するのかは不明だが、香港市民の多くは、この大火災が人災であるということに確信を持ち始めた。

 複数の情報源を突き合わせて、火災の背後にはどのようなことがあったと噂されているのか、整理してみるとこういうことだ。