産経新聞東京本社(写真:アフロ)
(西田 亮介:日本大学危機管理学部教授、社会学者)
「エモグラム」の盗用に見る新聞社の深刻な問題
直近でまたしても、新聞業界の信頼を根底から揺るがす事案が報じられた。産経新聞社が運営するウェブメディアで、記事の盗用が行われていたというニュースである。
◎「エモグラム」で記事を盗用、産経新聞社のネット媒体 5本を取り消して謝罪 @Sankei_newsより
すでに報じられている通り、同社は記事を削除し、取り下げを行った。本稿では、この産経新聞の不祥事を端緒に、新聞社をはじめとするオールドメディアが抱える「信頼」を巡る深刻な問題を、特に慢性的なリソース不足の中で安易な「外注」に依存するリスクや、過去の類似事案(なかでもちょうど1年前の毎日新聞の事例)と比較しながら論じてみたい。
さらに、こうした不祥事が起きた際のメディア側の「訂正」や「お知らせ」のネット上での公開方法――いわゆる「謝罪のUI/UX」とも言うべき問題――について指摘してみたい。
まず、事案の概要を確認しておく。今回問題となったのは、産経新聞社が運営する「emogram(エモグラム)」という媒体だ。
そもそもこの「emogram」というメディアの存在自体、認知度が低いと言わざるを得ないが、2025年5月20日に開設されたばかりのサイトで、「毎日がポジティブに整うメディア」を謳い文句にしている。
サイトの名前は、「エモさ」と、「電報」を意味する「テレグラム(telegram)」をもじったのであろうか。SNS上の声を「喜怒哀楽」で分析し、トレンド情報を届けるというコンセプトらしいが、トップページを見ると、芸能ニュースや生活お役立ち情報、インフルエンサー関連の記事などが雑多に並んでおり、新聞社が運営するサイトとしては、いささか方向性が不明瞭な印象を受ける。
個人的にどうしても看過できないのが、この「エモグラム」という名称である。「エモ」という言葉が使われているが、これは筆者が『エモさと報道』(ゲンロン)をはじめ、以前から各所で批判してきた、報道、特に新聞記事の「エモ化」――客観的なエビデンスよりも、記者の主観や物語性を優先させる傾向――と無関係ではないだろう。新聞社が自ら「エモ」を冠したメディアを作り、そこで他社の記事を盗用するという不祥事を起こしたのだとすれば、これはあまりにも皮肉が効きすぎている。
具体的な不祥事の中身だが、産経新聞社の発表や各社の報道によると、2025年11月17日から25日にかけて配信された計5本の記事で盗用が確認されたのだという。
記事の執筆と編集を担当していたのは、外部の派遣スタッフであった。このスタッフは、他媒体の記事をコピーし、語尾を少し変えるなどの改変を加えただけで、自社の記事として配信していたのである。
問題なのはガバナンス上の課題であろう。メディアには通常、記事の品質を担保するための「デスク」と呼ばれるチェック役が存在する。今回のケースでもデスクによるチェックは行われていたとされる。
だが、編集実務自体が外部の業務委託の編集者に任されていたとされ、デスクと編集者のチェックをすり抜けてしまった、あるいは十分に機能していなかったということのようだ。産経新聞側は「盗用と気づくには至らなかった」と説明しているが、組織的なチェック体制が機能不全を起こしていたと言わざるをえまい。