急上昇する長期金利は高市政権に何を伝えているのか(写真:REX/アフロ)
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(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング)

 キア・スターマー首相が率いる英国の労働党政権は11月26日、秋の予算案を発表したが、英国の財政をさらに悪化させる可能性が懸念されていた。英国では財政再建が遅れており、財政赤字は名目GDP(国内総生産)の5%前後で高止まりしている。特に、歳出の拡大に歯止めがかかっていないことが問題である。

英国の財政収支 (出所)英財務省

 そもそも労働党政権は、前任の保守党政権の下で悪化した財政の健全化を訴え、増税に踏み切るなど国民に痛みを強いていた。一方で、労働党政権の経済運営観は基本的に左派的であり、分配を重視する考えから歳出拡大も進めた。むしろ財政の健全化と歳出の拡大を同時に達成するため、増税を通じて歳入の確保に努めたと評した方が正しい。

 労働党政権の下で、財政収支の“ワニの口”は拡がらなかったが、歳出と歳入がともに増える傾向を強めている。いわゆる“大きな政府”を追求する以上、これは当然の結果だが、供給減を主因とするスタグフレーション(景気低迷と物価高騰の併存)の渦中にある今の英国経済にとって、大きな政府を追求することなどご法度だ。

 かつてマーガレット・サッチャー元首相が断行したように、本来なら歳出の削減や規制の緩和を通じて“小さな政府”を追求し、供給を刺激することが重要だ。にもかかわらず、左派的な経済運営観を持つ労働党政権にはそれができない。それどころか、大きな政府に固執し、その手法でスタグフレーションを改善しようとしている。

 金融市場では、労働党政権が秋の予算案の中で、さらなる歳出の拡大を打ち出すのではないかといった不信感が高まっていた。ワニの口が広がることで、投資家が英国政府の支払い能力が低下すると懸念したのである。しかし発表された内容は、投資家の想定よりも穏健な内容だったため、金利は落ち着き、通貨が買い戻された。

英国の金利と通貨(2025年) (出所)イングランド銀行(BOE)