ドル安なのに円安が進む原因はどこにあるのか?
とりあえず息を吹き返しているドル相場に対して、問題なのは円の近況だ。以下の図表に示す通り、円の名目実効為替相場(NEER)は2022年3月に始まった今回の円安局面の最安値に接近している。結局のところ、FRBが金利を上げようと下げようと円売りは収まらなかったということである。
過去のコラムで常々議論してきた通り、名目金利差から円相場の強弱を解釈できるような状況ではない(実質金利差であれば解釈できるので、この点は次回の本欄で論じたい)。

上の図表を一瞥すれば、過去3年半は「欧州通貨上昇、円下落、ドル横ばい」という事実が見て取れる。とりわけ、スイスフランの約+20%上昇、円の約▲20%下落という対照性は目を引く。
こうした円相場の現況を踏まえ、分析者が検討すべき論点は米国の経済統計の強弱やそれに伴うFF金利の軌道ではなく、日本の経済・金融情勢だろう。
米国の経済・金融情勢、ひいてはドル相場の上下動と合わせ鏡のように円相場が上下動しているのであればまだしも、そのような兆候はほとんどない。まずは円固有、ひいては日本経済固有の事情を検討したい。
この点、今年の円安はNEERで見ても10月以降に一段加速しており、これが高市政権のマクロ経済政策に対する思惑を反映した動きであることは疑いようがない。
「拡張財政が金利上昇を介して通貨高を招く」という(マンデルフレミングモデルに基づいた)理論的な正当性を主張する経済アドバイザーの見解が注目を集めているが、ともあれ現実に起きていることは拡張財政路線と円安の併存である。
理論に忠実であることは大切なことだが、起きている現実に対し「教科書的な正しさ」を訴えかけても詮ないことではある。実際にリスクをとって資金を出している市場参加者が円を忌避している現実を、政策担当者だからこそ直視してほしいと思う。