撮影/西股 総生(以下同)〈Nikon Zfc/MD ROKKOR45mmf2〉
(歴史ライター:西股 総生)
はじめて城に興味を持った人のために城の面白さや、城歩きの楽しさがわかる書籍『1からわかる日本の城』の著者である西股総生さん。JBpressでは名城の歩き方や知られざる城の魅力はもちろん、城の撮影方法や、江戸城を中心とした幕藩体制の基本原理など、歴史にまつわる興味深い話を公開しています。今回は城写真のもうひとつの愉しみとして、モノクロでの撮り方をご紹介します。
関東初の本格的な近世城郭
プロのような写真や、コンテストで入賞できる作品を目ざすのではなく、あくまで自分が城を楽しむためにシャッターを切りたい…そんな向上心のない酔狂な城写真シリーズ。今回は、太閤殿下の築いた石垣山一夜城を、あえてモノクロで撮ってみた。
石垣山城についてはもはや多言を要すまいが、天正18年(1590)の小田原攻めに際して豊臣秀吉が築いた、関東初の本格的な近世城郭だ。といっても、廃城後は度重なる地震に見舞われ、今となっては崩れた石垣が累々と残るのみの古城址となっている。
石垣山城の崩れた石垣。角の部分は算木積の形状を保っている〈PENTAX30mmf2.8〉
そんな廃墟感満点の城をモノクロームで撮るなら、やはり古式ゆかしいB級レンズを使ってあげたい。というわけで、ペンタックス30mmf2.8とミノルタのMDロッコール45mmf2という2本を引っぱり出してみた。
この2本を、それぞれマウントアダプターを介してニコンZfcに取り付ける。ZfcはAPSCフォーマットなので焦点距離が1.5倍になって、ペンタの30mmは45mm、MDロッコール45mmは68mmになる。標準レンズと短めの中望遠を1本ずつ持っている感じだ。あとはカメラの設定を「MC(モノクロ)」モードにすればOK。
石垣山城址からは小田原の市街と相模湾を一望できる。太閤殿下も眺めた景色〈PENTAX30mmf2.8〉
といっても、レンズは半世紀近く前に作られた代物だから、最新のデジカメとの連動など望むべくもない。露出は一応、絞り優先オートが使えるけれど、実絞りAEになるから、f8くらいまで絞ると液晶ファインダーではピントのヤマが掴めない。絞って撮るときは、致し方なく開放で構図を決めピントを合わせておいてから、絞りリングをカチカチ回すことになる。
ああ、面倒くさい。
当然、露出精度も期待できないから、1枚撮っては出来を確認して露出補正をかけ直す、という作業を繰り返す。何ともまだろっこしい。でも、楽しい。自分でカメラを操作して写真を撮っていることが、指先から実感されてくるからだ。
本丸の石垣も盛大に崩れている〈PENTAX30mmf2.8〉
本丸の石垣。ところどころ崩れ残っているのがかえって廃墟感を醸し出す〈PENTAX30mmf2.8〉
ペンタの30mmf2.8も階調がきれいに出るレンズで気に入っているが、今回予想外に健闘したのがMDロッコール45mmf2の方。絞りを開けるとふんわりしたボケを作ってくれるレンズというイメージだったが、モノクロの場合は絞りめにして撮ると、なかなかレトロな写りをしてくれる。
カラーで撮ると緑が優しく写るMDロッコールだが、モノクロだとエッジの効いた描写になるようだ〈MD ROKKOR45mmf2〉
昔のイタリア映画っぽい画面にしてみた〈MD ROKKOR45mmf2〉
そうして崩れた石垣を撮っていると楽しくてしようがないのだけれど、気がつくと同じような写真ばかりになっている。おっと、石垣以外の被写体も拾うようにしなくては。写りがレトロっぽくなる分、自動車や自動販売機、街灯といった今時の人工物が画面に入ってくると違和感が強いので、フレーミングには気を使う。
絞りを開けたときの「甘さ」を利用してレトロっぽさを出してみる。2025年に撮ったデジカメ写真とは思えない〈MD ROKKOR45mmf2〉。
こうしたモノクロ写真は、もちろん最新のデジタルレンズでも撮ることができる。たいがいのカメラにはモノクロ撮影モードが搭載されているし、フィルター効果なども選べることが多い。筆者のニコンZfcもそうだが、機種によってはモノクロ撮影モードの設定を細かく調整できるようになっているから、手持ちのレンズと組み合わせたときに自分好みの画になるよう、いろいろ試してみるとよい。
天守台は本丸の草むらの奥に鎮座していた〈PENTAX30mmf2.8〉
モノクロで城を撮る場合、被写体が櫓や門などの建物であれば、レトロ味が出るよう工夫するとよいが、石垣を撮るなら光と影を丹念に読みたい。興味のある方は「デジカメでモノクロの城写真」にチャレンジしてみてはいかが?
秋のやわらかな日が射して、石垣が何だかいとおしく見える〈MD ROKKOR45mmf2〉








