安倍元首相が銃撃され死亡した事件の初公判のため、奈良地裁に入る山上徹也被告を乗せたとみられる車列=10月28日(写真:共同通信社)
安倍晋三元首相銃撃事件で起訴された山上徹也被告の公判が、奈良地裁で行われている。10月28日に始まり、これまで11回。被告人質問は12月4日まで続く予定だ。山上被告をモデルにした映画『REVOLUTION+1』(2022年)を企画し、足立正生監督と共同で脚本を担当した井上淳一氏は、被告の母親と妹が証言した11月18日の第8回公判を傍聴。当日の夜に独自の視点で綴ったFacebook投稿が大きな話題となった。その投稿を踏まえつつ、公判の模様と脚本家としての思いをあらためて寄稿してもらった。(JBpress編集部)
367人中32人の傍聴席抽選に当たる
もともと傍聴記など書く気がなかったのだ。そもそも傍聴する気さえなかったのだ。クジ運が悪いので、傍聴券の抽選にハズレるためだけに奈良に行っても仕方ないと思っていた。溢れかえるであろう報道を見れば事足りる。そう自分に思い込ませていた。
それが変わったのは、『REVOLUTION+1』の監督の足立正生さんが傍聴に毎回東京から駆け付け、全回抽選にハズレていると聞いたからだ(この時点で7回)。しかも、夜行バスで。足立さん、86歳。僕はこの映画の脚本を書いている。山上徹也被告を描いた映画だ。事件から1カ月半後に撮影し、国葬の日に合わせて上映した。そういう映画を書いた責任は間違いなくある。だから、僕もまた夜行バスに乗った。11月18日の第8回公判の傍聴券抽選にチャレンジするために。
それが、いざ傍聴したら、そんなことは言っていられなくなった。それくらい凄まじかった。その一語に尽きた。この日の傍聴希望者は367人。初回は722人、前回は341人。この景色を伝えないのは、ハズレた人たちに、今回もハズレた足立さんに、申し訳ないと思った。それで、その夜にFacebookに2000字強の傍聴記もどきを書いた。それがバズって、編集者の目に止まり、この原稿を書くに至った次第。
裁判所に入る前にもう少し。抽選券配布は午前8時30分~9時30分。奈良地方裁判所は近鉄奈良駅から徒歩3分だが、配布場所はここではなくて、そこからさらに20分弱歩いた奈良公園春日野園地というところ。鹿のいる中に仮設のテントがあって、赤い三角コーンが並んでいる。
抽選券は紙ではなく、リストバンド。いつの間に変わったのだろう。これがなかなかの優れもので、接着部分にアーガイル状(菱形の格子状)の切り込みが入っていて、外すと必ず破れるようになっている。これじゃ絶対に人に譲れない。
筆者の手に巻かれた抽選番号のリストバンド
リストバンドを左手に巻いてもらい、近鉄奈良駅まで戻って、足立さんとサンマルクカフェで待つこと3時間。11時30分過ぎにWEB上で結果が発表される。この日の一般傍聴席は32席(全67席、記者席が32で関係者席が3)。クジ運悪いのに当たってしまう。足立さんは今日もハズレ。申し訳なくて顔が見られない。
