奈良地裁に入る、山上徹也被告の母親を乗せたとみられる車両=11月13日(写真:共同通信社)
「私が加害者」全責任を引き受ける母親
前半の山場は、弁護側の質問の最後、自身の責任を問われた時だ。
「私が加害者だと思う」
そうハッキリ母親が答える。
「本当の宗教の姿をはき違え、献金に一生懸命になって大変な間違いをした」
「教義は正しいと思うが、理想の家族を説きながら、私は献金と活動によって、子供たちを放ったらかしにしてしまった」
正直な言葉だと思った。が、と同時に微かな違和感を覚えた。この後、休憩になっていたので、傍聴に来ていた鈴木エイトさんに「まだ統一教会をかばってますよね?」と訊くと、「あれをそのまま報道しちゃうと、反省してるように見えるけど、教義は間違っていないと言ってますからね」と。やはり。
母親には間違いなく息子をかばいたいという気持ちが強くある。それと同じくらい、教団をかばいたいという気持ちもまた間違いなく存在している。教義は正しいが、自分が間違った解釈をしてしまったから、息子はこんな事件を起こしてしまった。責任はすべて私。息子にも教団にも責任はない。
これを読み間違えると、この事件の根深さを決定的に見誤ってしまうことになる。脱会を問われると、「今ここでは答えられない」と言葉を濁していたし。
次に検察側の質問。統一教会と事件にそこまで関係がないことを証明しようという意図がもうありあり。あとは被害者と統一教会の関係を薄くしようと、「あなたは安倍元首相に勧誘されたのですか?」「安倍元首相に献金をしろと直接言われたことがありますか?」という質問まで。
バカじゃないの。そんなこと、あるわけないじゃん。因果関係って、そういう即物的なことなの? 本当にくだらない。
検察の質問の最後──
「徹也は根は悪い人間ではないです。私がもっとしっかりしていたら人生は台無しにならなかった。徹也には申し訳ないと思っています」と母親。その声が震えている。これを言うために、これを息子に聞かせるために、ここに来たのだろう。
衝立で隠されているので傍聴席からは見えないが、その顔が間違いなく山上を向いているのが分かる。その時、ずっと顔を伏せていた山上が一瞬顔を上げた。
休憩になる。それまで休憩中もポーカーフェイスで俯いていた山上が何度も額に手をやる。何かが確実に揺れている。