安倍元首相を襲撃した山上徹也被告は「ローン・オフェンダー」だとされる(写真:ZUMA Press/アフロ)
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3年前、安倍晋三元首相を襲撃して殺害し、殺人罪などに問われている山上徹也被告(45)の公判が、1カ月後の10月28日から奈良地裁で始まります。山上被告は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みから同教団と関係の深かった安倍元首相を狙ったとされていますが、同被告自身はどの組織にも属さない「ローン・オフェンダー(単独の攻撃者)」だったとされています。では、ローン・オフェンダーとはどんな存在なのでしょうか。やさしく解説します。

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かつて「ローン・ウルフ」と呼ばれた

「ローン・オフェンダー」とは、「Lone(単独の)」と「Offender(攻撃者)」を組み合わせた言葉で、警察庁は「特定のテロ組織に関わりのない過激化した個人」と定義しています。単独で要人への攻撃やテロに走る人は、かつて「ローン・ウルフ(一匹狼)」と呼ばれていましたが、この言葉には犯罪を美化するニュアンスがあるとして近年はローン・オフェンダーの呼称が定着してきました。

 一般的にこのタイプの犯罪者は、犯行の計画から準備、実行までを1人で行います。過激派組織や特定の宗教団体にも属していません。ただ、情報収集には熱心で、日頃からインターネットをよく使い、そのなかで「自分の敵」を発見したつもりになったり、強い思い込みから「自分を不遇にさせたもの」への憎悪を募らせたりします。

 そうやって妄想の世界に入り込むなどした結果、犯行に至るとされてきました。失うものが何もなく、犯罪へのためらいがない「無敵の人」(インターネットスラング、2008年に西村博之=ひろゆき=氏が使い始めた)もローン・オフェンダーの範疇に入ると解されています。

 1970年代に国内で頻発した連続企業爆破事件のように、戦後の日本では、テロや要人襲撃といえば、極左の過激派や極端な右翼思想の持ち主というケースが多く見られました。これに対し、ローン・オフェンダーにはそうした思想はなく、インターネットでさまざまな情報に触れるうち、社会に対する不満や他者への憎悪を募らせたという例が多いようです。

 安倍元首相が襲撃された翌年の2023年4月には、和歌山県の漁港で選挙の応援演説に足を運んできた岸田文雄首相(当時)が爆発物を投げ込まれました。威力業務妨害容疑で逮捕されたのは、無職の男(当時25)。首相にけがはありませんでしたが、爆発物の周囲には複数の鉄製ナットが取り付けられており、大惨事になった可能性もありました。

 警察の調べによると、この男も組織や思想とは無縁でした。インターネットで爆発物の作り方を調べ、ネット通販で火薬などの材料を購入していました。

 動機は何だったのでしょうか。一審・和歌山地裁の被告人質問によると、男は栄養士を目指していたころ、日本の子どもの栄養不足は大きな問題だと感じ、政治家になって問題を解決しようと考えたそうです。

 ところが、被選挙権の年齢に達していなかったため立候補を断念。その後、公職選挙法に不備があるとして国を提訴し、敗訴しました。この経緯をSNSで発信したところ何の反応もなかったため、「世間の関心を集めるためには騒ぎを起こすしかない」と考え、岸田首相を襲ったと述べました。

 男は懲役10年の判決を受け、控訴。この9月25日に大阪高裁で控訴審判決が言い渡されます。