対策へ専門部署設置、友人・家族が最後の砦か

 警察は「インターネット上における様々な言説等を契機として、特定のテロ組織等と関わりのない個人が過激化するいわゆるローン・オフェンダーの脅威も現実化している」(2023年警察白書)として、種々の対策を講じてきました。ただ、ローン・オフェンダーは個人で活動するため、過激派や特定の宗教団体などの動向を監視するという従来型の情報収集活動では対応できません。そもそも1人で活動するため、事件の予兆を把握し、未然に防止することが極めて困難なのです。

 それでも、放置するわけにはいきません。

図:フロントラインプレス作成

 警視庁はことし3月、ローン・オフェンダーを専門に捜査する「公安3課」を新設しました。SNSをはじめとするインターネット上の書き込みや警察に寄せられた相談・情報などを一元的に集約・分析。人知れず過激化している個人を特定し、犯罪の防止につなげる狙いです。

 ローン・オフェンダーの専門部署は、警視庁が初めて。今後は各道府県警察でも順次、体制が整備されていきます。一方、警察庁はこの6月、ローン・オフェンダー(LO)の前兆情報を察知して集約・分析する「LO脅威情報統合センター」を庁内に設置しました。各地の警察との連絡・調整にも当たります。

 警察は今後、AI(人工知能)も使いながら犯罪の予兆の把握に全力を挙げていく考えですが、体制の整備だけで目的を達成することができるのか疑問も残ります。警察に寄せられる不審者情報などは玉石混交で、通報者の主観や思い込みに左右される非常にあいまいなものが少なくありません。AIを使うといっても元の情報が精度を欠いていると、捜査はさらに困難になります。

 ただ、先に紹介したFBIの「Lone Offender」によると、ローン・オフェンダーの7割には友人も家族もおり、犯行前、双方は普通に接していました。それを踏まえ、この報告書は結論で大意、次のように記しています。

「多くは凶行に至る前に危険な言動を示しており、家族や仲間、オンライン上の関係者はそれに気づける立場にあった。実際、彼らと接点のあった半数以上の人々はそうした事前の言動に懸念を感じていた。したがってローン・オフェンダーになり兼ねない人が発する警告サイン(危険な言動)とはどのようなものかを周囲の人に教育し、懸念を報告できる仕組みを整えることが重要になってくる」

 このあたりに解決策の方向性があるのかもしれません。

フロントラインプレス
「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年に合同会社を設立し、正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や写真家、研究者ら約30人が参加。調査報道については主に「スローニュース」で、ルポや深掘り記事は主に「Yahoo!ニュース オリジナル特集」で発表。その他、東洋経済オンラインなど国内主要メディアでも記事を発表している。