労使の軋轢が深まれば、論点は制度設計から政治的な駆け引きへと変質しやすい。マンフレッド氏の「疑惑」は、その変質を加速させる起爆剤となりかねないだろう。

大谷とドジャースの「大型契約」が制度改革の起点になる可能性も

 こうした構造的緊張はドジャースという一球団の戦力事情とは無関係に、MLB全体の制度を揺るがしかねない問題へと発展しつつある。その流れの中で大谷のパフォーマンスやワールドシリーズ3連覇への期待、さらにはWBC連覇を目指す侍ジャパンでの役割とは裏腹に、ドジャースと結んだ超大型契約は「MLBの未来を映す鏡」と化しているのが現状と言える。

 スーパースターが制度を動かす――。MLBの歴史が繰り返し示してきた宿命は今回の大谷の“後払い契約”によって、かつてない規模と複雑さを伴って再現されようとしている。

 ア・リーグ某球団の極東担当スカウトは、こう断言する。

「大谷の契約は経済合理性に基づいたものだ。しかし、合理的であるがゆえに、制度の枠組みが抱える矛盾を露呈した。労使交渉の行方次第では、MLBの収益構造や競争均衡に対する大規模な見直しも間違いなく必要になる」

 それほどまでに、大谷とドジャースの“メガディール”は制度改革の起点として位置付けられつつある。

 来季、ドジャースは再び頂点を狙い、大谷自身も球団の悲願である3連覇と、侍ジャパンの一員としてWBC連覇という「二つの世界一」に挑むことになるだろう。しかし、その華やかな挑戦の影で、自らの契約はMLBの制度と政治の深層にじわじわと影響を及ぼし続けている。