大谷の「後払い契約」がMLB労使交渉の火種に
WBC出場表明で再びスポットライトを浴びたスーパースターの舞台裏で、この契約がMLB労使交渉の緊張を高める「制度上の火種」として再浮上しつつある。
大谷とドジャースが2023年12月に締結したこの契約は、総額の約97%を2034年以降に繰り延べる極めて特異な構造を持つ。ぜいたく税(ラグジュアリー・タックス)の計算上は年平均額が均される一方、球団の実際のキャッシュアウトは当面の間ごく軽く抑えられる。
財務上の柔軟性と継続的な戦力維持を両立させる“ドジャース流の経営最適化”と称賛される一方で、一部の資金力豊富な球団しか追随できない手法でもある。リーグの制度枠組みを合法的に突き詰めた結果、あまりにも「突出したモデルケース」となってしまったというのが実態だ。
かつてナ・リーグ球団で財務担当を務めた経験を持つMLB関係者は、この“後払い契約”が招きつつある制度的な波紋について次のように解説する。
「この契約が象徴するのは単なる制度の抜け穴ではなく、リーグ内の財務格差の決定的な表面化だ。この後払い方式を拡大すれば“税逃れ”の面も含め確かに機能するとはいえ、実際に実行できる球団は限られる。だからこそ労使双方が“公平性”を巡る論争の中心に据えようとしている」
グレーゾーンとはいえルールの範囲内であるにもかかわらず、その構造がMLBの競争均衡に悪影響を与えかねない――。その象徴性こそ、大谷とドジャースの“後払い契約”がMLB労使間の下交渉においてナーバスな案件として扱われている理由である。