もし中国が台湾に侵攻した場合、台湾を金銭的に支援することはできても、台湾を防衛するために国際社会は軍隊のひとつも送れないのではないか。中国がそう考えたとしても不自然ではない。
あっけなく崩れ去った香港の民主主義
仮に中国が台湾に侵攻した場合、中国を声高に批判することはできよう。経済制裁もできるかもしれない。だが、ロシアや北朝鮮、そして国際社会の規範維持には関心のない一部のグローバルサウスの国々が中国の側についたら、経済制裁は意味をなさないだろう。ロシアがいくら経済制裁を受けてもロシア経済が崩壊したという事実がないように、中国経済も持ちこたえるのではないか。
何より、香港は中国共産党の手に「落ちて」しまった。香港の民主主義を認める「一国二制度」はもはや形骸化し、香港の民主運動家たちは刑務所に収監されるか国外に逃亡した。台湾は「明日の香港」になる可能性が高い。香港の民主主義があっけなく崩れ去るのを嫌でも見せつけられた我々は、台湾が中国によって侵攻され、台湾の民主主義が死滅させられるシナリオを単に「最悪の想定だ」といって退けられないのである。
もし高市首相を批判する論理があるとすれば、歴代政権のように「あいまい戦略」を取らなかったことであろう。「存立危機事態に当たる」とまで明言する必要はなかったというのはその通りだ。高市氏はもはや保守派の一議員ではない。一国の首相としてはふさわしい発言ではなかっただろう。
ただし、やっかいなのは、今さら発言を撤回できないことである。撤回すれば、「中国が台湾に侵攻した場合、アメリカの船を守るために集団的自衛権を行使することはない」というメッセージを発してしまう。これこそ「あいまい戦略」から外れてしまうのである。高市首相が撤回をかたくなに拒むのにもそれなりの理由が存在する。
中国は大国、日本はミドルパワーという現実
ここで我々が認識しておくべき現実がある。中国は大国である。人口は約14億人、アメリカにつぐ世界第2位の経済大国である。軍事費は36兆円を超え、こちらも世界第2位を占めるし、約600の核弾頭を保有すると推定されている。中国がいずれアメリカと並び立つ「超大国」になるというシナリオは、かなり現実味を帯びつつある。筆者も「おそらくそういう時代がいつか来るのだろう」と考えている。