「極端な想定だ」とは言い切れない

 では、この発言は“完全に非現実的”なものなのか。批判する側もそうとは言い切れないのが、今回の問題の難しいところである。むしろ、安全保障専門家の世界では、「戦艦という言葉を使ったことを除けば、東アジアの情勢認識としてはある程度正しい」のだ。順を追って説明してみよう。

 2015年に集団的自衛権の行使容認を前提とした安全保障法制が審議されていた時、主な想定事例として挙げられていたのは「ホルムズ海峡の機雷掃海」といったものであった。しかし、あれから10年がたった。今、東アジアの安全保障の専門家たちが議論しているのは、何より朝鮮半島有事と台湾有事のリスクである。

 朝鮮半島有事については、北朝鮮の核兵器開発が問題である。しかし、北朝鮮が韓国に侵攻して統一を目指す(第二次朝鮮戦争)というシナリオにはあまり現実味がない。韓国はアメリカと同盟関係にあり、国力が強いからである。

 韓国はアメリカの「核の傘」のもとにあり、北朝鮮を抑止することに成功している。韓国が北朝鮮に侵攻するというのも基本的には考えにくい。北朝鮮との国境線に近い首都ソウルに向けて反撃された場合、甚大な被害が出るからだ。

 アメリカが北朝鮮に侵攻する可能性も当面は低いだろう。つまり、朝鮮半島有事はある程度コントロールできる範囲内に収まっているのだ。

 むしろ、より危険なのは台湾海峡である。中国が台湾に侵攻する可能性には現実味がある。アメリカの安全保障専門家の一部は、2027年に中国が台湾に侵攻するリスクを盛んに議論している。

 その予想が「極端な想定だ」とも言い切れないのは、2022年にロシアがウクライナに侵攻して以降である。欧米諸国に支援されたウクライナは必死に持ちこたえているとはいえ、欧米諸国はウクライナを防衛することはできなかった。ロシアの抑止に失敗したのである。