NPOの規模に応じた「二階建て」規制の必要性

「準市場(Quasi-market)」という概念が示す通り、非営利セクターは純粋な市場原理では解決できない、しかし行政の一律的なサービスでも対応しきれない領域を担っている。

 政府は資源を持っているが、個別の社会課題に対する「解像度」が低く、専門性も乏しい。一方、NPOは現場の課題に対する解像度は高いが、資源がない。

 この両者が協働し、政府の資源を使ってNPOが課題解決にあたるという図式は、福祉国家の財源的制約が露呈した現代において、1990年代にイギリスのブレア政権が提唱した「第三の道」が代表する世界的なモデルでもある。

 日本においても、少子高齢化で行政機能が縮小していく中、若年無業者支援や非行少年の更生、まちづくりといった票になりにくく市場化も難しいニッチな領域を支えているのもNPOである。

 2025年現在、全国には約5万のNPO法人が存在し、その多くが地域社会の不可欠なインフラとして機能している。むしろ数の上ではピークアウトが始まっている。

 今回の疑惑を受けて、NPOに対する監視の目が厳しくなることは避けられないだろうし、そうあるべきでもある。監査の実効性向上や、利益相反の防止には実効的なアプローチが導入されるべきだ。

 しかし、その批判の矛先が、一部の「エリート・ソーシャルビジネス」のガバナンス不全に向けられるのではなく、制度やセクター全体への不信やバッシングへと転化するなら、割を食うのは、日々の資金繰りに奔走しながら地域を支えている大多数の小規模NPOであろう。それは結果として、日本のセーフティネットをさらに脆弱にすることになりかねない。

 結論として、今求められているのは、冷静な問題の特定と実効的な課題の克服、そして現実的なNPO制度の再構築である。

 公的資金を受け入れる規模の大きなNPOに対しては、企業と同等かそれ以上の厳格なガバナンスと透明性を求めるべきである。そこでは「社会貢献しているから」という甘えや、手続きの軽視は許容されるべきではない。

 しかし、大多数を占める小規模なNPOに対しては、むしろ過度な事務負担を求めず、活動しやすい環境を守る「寛容な制度」を維持することも必要だろう。規模や公的資金の受入額に応じた、いわゆる「規制の二階建て」構造への転換が必要かもしれない。

 また、ソーシャルビジネス第1世代から20年以上固定化されてきた業界に適切な新陳代謝をもたらす必要がある。同じような人物が多くの分野で長期間にわたって「有識者」として公金の配分に関与し続けるシステムは見直されるべきだ。そのうえで、大多数を占める善意の小規模NPOが活動しやすい環境を守ることである。

 今回の疑惑は、日本の非営利セクターとNPOが「善意と熱意」だけで走れる牧歌的な時代が終わり、次のステージに入ろうとしていることを示唆する。厳格な「規律と責任」が問われる成熟期に移行すべき時期に来ている。

 1995年のボランティア元年、2011年東日本大震災を契機とする寄付元年を経て、2025年のいま、非営利セクターを再度評価し、再設計する局面を迎えているのではないか。